インキュベーションプロジェクトはMicrosoftを救える。同社には、これまで以上にそれが必要だ。
わたしがMicrosoft社員と軽く話をする――オフレコで、絶対に記事には書かないことだ――とき、いつも出てくるテーマが「官僚主義」だ。管理職の階層が多過ぎ、MBAが多過ぎ、プロセスが多過ぎる。調査やフォーカスグループで必要性を証明しなければならないプロジェクトが多過ぎる。新しい優れたアイデアの承認を得るのが難し過ぎる。
このような不満が何らかの意味を持っていたとしたら、これからはどのくらい大きな意味を持つのだろうか。Microsoftは先週、約1400人をレイオフした。今後18カ月でさらに3600人を削減する計画だ。レイオフへの不安は皆の心に影を落とし、士気を下げ、社員は大胆になるべき時に慎重なってしまうだろう。今こそ、将来に投資するべき時なのに。
わたしは昨年9月に、Microsoftのインキュベーションプロジェクトの重要性についてブログに書いた。奇しくも、Lehman Brothersの破たん――世界経済を恐慌状態に陥れた――の3日前のことだった。わたしはMicrosoftの若手マネジャーや他社から来た社員が変化をもたらす影響力を持っていると賞賛した。
「Microsoftは次第に、新興企業やインキュベーションプロジェクトが緩くつながったネットワークになりつつある」とこのときわたしは書いた。「こうしたグループの取り組みから、Live Mesh、Photosynth、Popfly、WorldWide Telescopeが生まれた。これらのプロジェクトが小さな企業から生まれたものであれば、非常に革新的だと思われるだろう。だがこれらは、Microsoftで生まれ、このような大企業の中で見失われることで、何かを失ってしまう」。今はもっと社内ベンチャーを立ち上げ、もっとリスクを取るべき時だ。
先日、レイオフに関するMini-Microsoftブログの2回目の投稿に寄せられた多数の匿名のコメントを読んでいたときに、あるコメントが目を引いた。「われわれの『diworsification(リスクとリターンを減らす形で投資先を増やす)』戦略の主な例がもう1つある。Microsoft Songsmithだ。われわれは一体何をやっているんだろう? どういうユーザーに訴求しようとしているんだろう? 伴奏に興味がある音痴の人だろうか? 理解できない」
わたしには理解できる。SongsmithやWorldWide Telescopeのような小さく見えるプロジェクトこそ、Microsoftの未来となるはずだ。プラットフォーム開発者がキラーアプリを求めるのには理由がある。今はたくさんのWindowsアプリケーションが存在しているが、人々が新しいWindowsマシンを買いに走るほどエキサイティングなものはない。
Macは違う。Appleのブランドと製品は、先細りのMicrosoftと比べ、勢いがある。原動力となるものは1つではない。直営店、iPhone、iPod、iTunes、積極的かつ効果的なマーケティングなどが、Macが市場シェアを伸ばしている理由だ。もう1つの要素もある。アナリストはよく見落とすが、顧客は見落とさないファクターであり、Appleのキラーアプリ――iLifeだ。
先日、AppleはiLife '04以来最も機能豊富なアップグレード「iLife '09」をリリースした。2000年代のiLifeは、1990年代におけるプロダクティビティスイートのような存在だ。Officeはバージョン95以降のWindowsの売り上げを押し上げた。Officeスイートはドキュメント時代のWindowsキラーアプリの1つだった。だがコンピューティング時代は過ぎ去った。人々は今もコンテンツを作っているが、彼らが考えているのはニュースレターではない。デジタル写真を撮影し、ホームビデオを制作し、音楽を聴く――さらには作る――ことだ。
わたしは数カ月前、多くのジャーナリスト養成校が生徒にMacノートの使用を勧めていることをブログに書いた。その主な理由はiLifeだ。ミズーリジャーナリズム学校は、入学する生徒にWindows PCではなくMacを購入するよう勧めている学校の1つだ。同校はノートPC要件に関して以下のようなFAQを掲載している。
Q:どのブランドやモデルを買えばいいですか?
A:当校では以下の2つの理由からAppleを勧めています。(1)AppleのOS XはUNIXを基盤としており、ほかのコンピュータと比べてウイルスの影響を受けにくくなっています。ウイルスは大学キャンパスにおいて深刻な問題となっています。(2)MacBookおよびMacBook ProにはiLifeが搭載されています。iLifeは写真編集、オーディオ・ビデオ編集の基礎を学ぶのに理想的なアプリケーションです。当校では複数の講義でこれらのソフトを使います。入学生には毎年2月に推奨モデルと価格の情報を提供しています。
Q:Windowsの方が好きなのですが。
A:それも選択肢の1つですが、コンピュータ援用取材(CAR)を仕事にするつもりがないなら、お勧めしません。PC向けの写真、オーディオ、ビデオ編集ソフトを買うまでには、おそらくMacを購入した場合よりも時間がかかるでしょう。
2003年にAppleがiLifeを立ち上げたときに、79ドルのソフト――Macにはタダで載っている――がニューメディアジャーナリズムのツールとして好まれ、さらに推奨されると誰が想像しただろう。Appleは正しく作られたソフトウェアの真の価値を示した。iLifeは、Officeが10年前にテキストコンテンツ作成のキラーアプリであったように、デジタルコンテンツ作成のキラーアプリなのだ。
Songsmithは、Microsoftがどうすれば未来を取り戻せるかを示す素晴らしい例だ。Microsoft Researchから生まれたこのソフトは30日間無料で使える。その後は29.95ドル払わなければならない。なんと、お金を払ってソフトを買うのだ。広告付きで無料で手に入れるのではなく。デジタルダウンロードなので、流通コストは安い。もっと重要なのは、SongsmithはAppleの「GarageBand」に匹敵するということだ。独自の機能を持っているからだ。ユーザーが歌うと、Songsmithはそれを基にサウンドトラックを作る。
Songsmithのような小さなプロジェクトから、Windowsをもっとエキサイティングにするキラーアプリが生まれる可能性はある。うまくすれば、Windows MobileやXbox、Xbox LiveといったほかのMicrosoftプラットフォームを巻き込んで展開できる。Microsoftには小さなプロジェクトの台頭を認め、さらにはOfficeやWindowsのような既存製品との競合を許す意欲があるだろうか?
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