日本式“カイゼン”戦略で進めるGTD

無理をせず、ゆっくりと、だが1つ1つの成果を大切に――。この日本式の戦略は、GTDにも応用できる。(Lifehacker)

» 2006年10月26日 14時27分 公開
[Jason Thomas,Lifehacker]
LifeHacker

 「カイゼン(改善)」と呼ばれる日本式の経営戦略は、大ざっぱに解釈すると、「継続的に、ゆっくり改良していくこと」だ。企業世界では、工場でよく採用される効率化と不良品排除のためのシステムがこれに当たる。だがカイゼンでは、作業者が幸せかどうかにも力点が置かれる。必死に、ではなく賢く作業を進めることであり、作業者が考え込む必要なしにベストプラクティスを打ち立てる。つまりカイゼンは、個々人の仕事の進め方を改良する場合にも、理想となるアプローチだ。

カイゼンと相性のいいGTD

 Getting Things Done(GTD)の手法は、カイゼンのプラクティスとよくマッチする。カイゼンが全体的戦略なら、GTDはプロセス改良のための一連の戦術だ。GTDにカイゼン方式を取り入れようとするなら、最も対策が必要と思われる部分に対してすぐに効果を発揮しそうな、GTDの戦術を幾つか選び出すといい。そして1カ月間、1週につき1件の割合でそれを実践していく。1つの戦術を――43 foldersにならって――1週間にわたって意識的に、考えながら実行する。すると1週間後、それはもう意識しなくていいレベルにまで自分の中に定着しているだろう。翌週には、前週マスターした戦術の実践を続けつつ、次の戦術に取り掛かるのだ。

 このように、無理をせず、現在のワークフローを大きく乱すことなく、新しい手法へと突如大掛かりに移行することもなく、自分のプロセスを継続的に改良していく。カイゼンで大切なのは、たゆまず続けること。とてつもない克己心で臨む必要はない。だが自分が得た小さな収穫の1つ1つを手放してはいけない。それぞれのステップは、歩みの幅が小さい分、実行もたやすい。

カイゼンを実践する

 カイゼンを始める前に、まずは座って、改善したいと思うことをリストアップしよう。1日の作業の効率を上げるのに、どこを改良すればいいか分からない人は、典型的な1日をサンプルに、時間軸で自分の行動の記録を取ってみるといい。その結果を見て驚くかもしれない――こんなに時間を無駄遣いしていたのかと。ジーナが以前紹介したタイムマップを使う手もある。これは自分の24時間がどこへ消えたか追跡する良い方法だ。

 効率アップできそうなことが3つあるとしよう。例えば、電子メールの処理、ときどきかかってくる電話の応対、そして報告書の作成に、多くの時間を取られているとする。

 このうち電子メールの処理が、時間の浪費や混乱、ドタバタの唯一最大の要因だとしよう。一度読んだはずのメールをなくしたり、返信するのを忘れたり。メールを1通読むか返事をするたび、それ以前に進めていた報告書作成業務に頭を切り換えるまでに数分を要してしまう。

 なので、まず電子メールの問題から取り掛かる。割と対策を打ちやすい問題だし、カイゼンの考え方の1つに、簡単に成果が上がりそうなことから始めるというのがあるからだ。すぐに役に立つ成果を得て、もっと難しい問題には後で取り組めばいい。

 読者の皆さんは、既にフォルダーフローを採用する電子メール処理の達人かもしれないので、以下は単なる一例と考えていただきたい。通常の受信箱と、緊急メール用フォルダを作り、緊急のメールは緊急フォルダに、それ以外のメールはすべて普通の受信箱に振り分けられるようフィルターを設定する。1時間に1回、5分間ずつ、コーヒーのお代わりのため離席する直前に、緊急のメールをできるだけ迅速に処理するようにしよう――この処理が早く済めば済むほど、コーヒーのお代わりが早くもらえるという仕組み。またランチの前と退社前の2回、緊急以外のメールを読んで処理し、受信箱を空にしよう。簡単かつシンプルだ。意識しながらプロセスを改善できる。

カイゼンの原則

 考えと簿記は、できるだけ具体的な形にしたいものだ。またそれは、できるだけ「お金をかけずに」、あるいはほかの作業に付随する形で行えた方がいい。さらに、可能な限りミスの起きない仕組みであってほしい。「緊急」メール選別フィルターを例に取ろう。「緊急」フォルダーを空にすることで、皆さんは緊急のメールを見落としていないことを確認できる。毎時最後の何分かをまとめてメール処理に充てることで、ドタバタする時間を短縮し、1つの作業から別の作業へ移る際の脳の切り替えにかかる負荷を見直すことができる。

 またカイゼンでは、無駄をなくすことにも力点が置かれている。工場のフロアでいえば、無駄な動きをなくすことがこれに当たる。作業員が手を伸ばせば届く距離に工具ステーションを置くことで、何度も繰り返される無駄なステップを排除できる。1日のうち、あるいは1カ月間に200人の作業員が同じような無駄を繰り返してきたとすると、これによって生産性は素晴らしく向上する。作業員にとってもそのほうが消耗が少ないため、全員にとって良いことだ。

 オフィス環境の場合、「浪費」といったら、脳を使う時間の浪費も含まれるだろう。1通のメールの処理に、ああでもないこうでもないと頭を悩ませるような状態がこれに相当する。報告書を作成中、5分おきにメールをチェックして「緊急」だというメールに返信していたら、結局、子猫のための家を探している人の相手までしてやらなければならなくなる。1日を通して考えると、こうした小さな中断の積み重ねはばかにならない。

 カイゼンの原則としてもう1つ、標準化がある。標準を意識して、何が「ベストプラクティス」なのかを前もって考える。その後、そのベストプラクティスを可能な限り具体化し、ベストプラクティスが自動的に行われるようにしていく。ティータイムの前にやるべきことが10件あり、今日はもう3回も督促を受けているとか、てんてこ舞い状態なってきたら、本来の習慣に立ち戻り、平常時に決めた手続きに従う。

マイ・カイゼン

 筆者は毎月1件ずつ、新しいプラクティスを取り入れている。フリーランスライターとしての仕事が増えてきたため、その仕事の進ちょくを管理するためのフォルダー間ファイル移動ルートを設定する必要に迫られた。これには、ミスの防止と記憶の補完という役割がビルトインされていて、自分ではそれを意識しなくていい。テトリスをやるように対象をフォルダ間で行き来させるにしても、考え込む必要はほとんどない。実際、所用時間は1日に数秒だ。ドキュメントを探して正規版かどうか判断したり、既に担当編集者にアイデアを伝えたのだったろうかと考え込むのに費やしていた時間とは比べものにならない。

 数カ月前には、GTD TiddlyWikiを使い始めた。これは機能満載で、幾つか非常に気に入るものがあった――実際、自分のプロセスの改善とワークフローを設計できるキャンパスのようだ。筆者はここに多くのデータを置き、自分のGmailアカウントにメールすることでバックアップを取っている。自分のハイパーリンクのシステムを継続的に分割し、もっと意味のある、シンプルで簡単な方法で再構成している。慣れるまでに多少時間がかかったが、結局は、単一の無料HTMLドキュメントにまとまっていることは実に魅力的で、これがなくなったらひどく困ってしまう。今では毎日使っているが、ほとんど無意識で作業している。写真の番号や連絡先の名前をどう整理しようか考えなくていいレベルだし、ちょっとしたアイデアをどこに書き置いたか分からなくなることもない。こういう場合の考え方がすべてビルトインされた状態だからだ。

 また別の月には、Hipster PDAを使い始めた。これにはすぐ慣れた。ちょっと病みつきだ。何かを忘れたり、ちょっとした資料をなくしたりといったことに関連するさまざまな問題がなくなった。

人生を楽しむためのカイゼン

 カイゼンは、プロセス改良の糸口だが、最も重要なのは、これらのシステムを使って、人生を今より楽にすることだ。結果として、こなせる仕事の量が増えるかもしれない。それはそれで良いことだが、一番の目標は、金曜に12時間も働かなくて済むようにすることなのを覚えておこう。

 体系化のためのシステムは、頭をかきむしり、爪を噛むような、締切前の土壇場状態をなくすためにある。携帯電話を使う前と使った後に必ず消毒液で殺菌してみたり、曜日別にファイルを色分けしてみたりといった、あなたの隣に座っている同僚のように、それを生活の手段とする必要はない。彼はこうした手段を崇拝し、入れ物を入れ物ととらえず、トーテムとして扱っている。だが、そんな必要はない。

 改善は、少しずつ、穏やかに進めよう。そして、たゆまず続けることだ。

ジェイソン・トーマスは米ミネソタ州ツインシティー在住のライター兼コンピュータ専門家。



この記事は、Lifehackerの発行元である米Gawker Mediaの許可を得て、アイティメディア株式会社が翻訳したものです。翻訳責任はアイティメディアにあります。

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