連載タイトル | |
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1 | 心の動きに合った会話で相手を説得する |
2 | 相手を説得する──「人の評判タイプ」と「自分の納得タイプ」 |
3 | 相手を説得する──「自分のためタイプ」と「人のためタイプ」 |
4 | 相手を説得する──「賛成タイプ」と「反対タイプ」 |
5 | 相手を説得する──「可能性タイプ」と「必要性タイプ」 | 6 | 相手を説得する──「1人でタイプ」と「誰かとタイプ」 |
人はそれぞれ、物事を見分けてそれを判断する際の心の動きのパターン「認知パターン」を持っており、そのパターンに沿って行動しています。相手の認知パターンに合った質問をしたり提案をしたりすると、相手はその質問や提案を受け入れやすくなります。逆に、相手の認知パターンに合わない方法で働きかけると、相手は返答するのが億劫になったり、抵抗したりすることになります。円滑なコミュニケーションをとるためには、相手の認知パターンに合ったアプローチをすることが有効です。商談や、上司/部下/同僚との会話などで活用してみてください。
この認知パターンは大きく6つあります。そのそれぞれについて、2つのタイプを紹介していきます。ただし、必ずどちらかのタイプになる、というわけではありません。大抵は7対3とか6対4とか、一方の傾向が強いという風に現れます。どちらが良い、悪いという問題ではありません。読者のみなさんも、自分は「どちらの傾向が強いかな?」と考えて、10点法でチェックしてみてください。
では、1つめのパターン。「向かうタイプ(Moving Toward)」と「避けるタイプ(Moving Away)」を紹介します。
向かうタイプの人とは、快を得るため、成功するために動機づけられる人です。「それが手に入ったら、どんなにいいか、どんなにハッピーか」「この商品があることで、どんなに楽しくなるか」と考えることで、モチベーションが上がります。このタイプの人に商品を売りたい場合は、この商品によって快に結びつくことを引き出し、膨らませて、その未来のイメージを示してあげること。すると買う気になります。
一方、避けるタイプの人は、快にはあまり動機付けられません。反対に、苦痛を避けるため、失敗しないように、ということから動機付けられます。セールストークでは、「これがないと、どれだけ困るか/辛いか/きついか」を、できるだけ引き出してあげてください。商品を売る場合は、「この商品がないままだとしたら、どんなに惨めな未来になるか」を相手から引き出してあげて、一緒に想像してあげると、買う気になります。
クルマを売る場合をシミュレーションしてみましょう。向かうタイプの人には、「このクルマがあったら、どんな良いことがありますか?」「どんなに楽しいですか?」「何の役に立ちますか?」と聞いてみてください。例えば「週末にドライブに行ける」「買い物にクルマで行ける」「おじいちゃんをクルマで迎えに行ける」「子供たちと一緒に、このワゴンでドライブに行ける」「いつでも行きたいときに遠出できる」など、クルマがあると、どれだけ良いかを引き出してあげます。
でも、「駐車場代がかかる」「置き場所がない」と言い出すこともありえますね。その際は、「確かにいろいろ必要なものはあると思いますけれど、それでも週末がとても楽しくなりますよ」という快の方を膨らませてあげると、お客さんは「やっぱりそのほうが楽しいから、買おう!」という気になります。向かうタイプの人には、快を引き出してあげましょう。
避けるタイプの人だと、楽しいことをあげてみても「うーん……」と反応があまり良くありません。「楽しいでしょう?」と言っても、ノってこない。避けるタイプの人に響くアプローチは、「これがないと何が困りますか?」「どんなに困りますか?」といった方向です。
クルマがないと「おじいちゃんを迎えに行けない」「坂道を歩かなくちゃいけないから買い物が不便だ」「保育園の子供を迎えに行けない」「アウトレットで買い物できない」など、クルマがないと、あれが困る、これが困るという方向で、どんどんイメージを引き出してあげて、一緒になって想像します。「ちょっと想像してみてくださいよ、おじいちゃんはバスで迎えに行かなきゃいけませんよ。買い物だって、自転車だったら雨が降ったらびしょ濡れですよ。荷物を持って、長〜い坂を歩かなきゃいけない自分を想像してみてくださいよ。このクルマがないと、どうですか?」と。お客さんから「辛い……」という言葉が出てきたら、しめたものです。こうなるとだいたい、「買います」となります。
このように、避けるタイプの人からは、
向かうタイプの人の場合は、
このタイプはいつも固定的ではありません。物事のテーマによって、タイプは変わってきます。長期的なものと短期的なものによって違いますし、仕事とプライベートでも違っていたりします。
今回は「向かうタイプ」と「避けるタイプ」を紹介しましたが、このタイプも、仕事とプライベートな場面では同じ人でも変わることがあります。例えば、脳外科医が仕事である手術中に、「ちょっと可能性は低いけれど、やっちゃったらうまくいくかも」なんて考えて、可能性の低い手術に事前の断りもなしに“向かう”のは困りますよね。手術では危険は“避けて”無事に済ませたい。ところが、仕事でそんなことばかりだからか、プライベートではスカイダイビングなどをする方も多いです。そうやってバランスをとっているわけですね。仕事は危険を“避ける”分、プライベートではスカイダイビングなど、スリリングな方向に“向かう”こともあるのです。
長期的なものと短期的なものでも違います。例えば、就職とアルバイトを考えてみてください。長期的に考える就職だったら、失敗を“避ける”ために大企業に入る人がいれば、本当にやりたいことに“向かいたい”からベンチャーに入る、という人もいます。同様に、短期アルバイトの場合、「夏休みだけのアルバイトだから楽しみたい!」といって“積極的に(向かう)”リゾート地のアルバイトに行く人と、「どうせ3カ月のバイトだから事務作業でもなんでもいい。お金さえもらえればいい」というように、余分なものを“避ける”人もいます。
大きいことと小さいことでも違います。家を買うことと、お昼に何を食べるか、はレベルが全く違いますね。家を買う場合に、“避ける”タイプの人だと、雨漏りがしない、騒音がしない、地震で倒れない、など、とにかく「しない(避ける)」が大事な人でも、お昼ご飯に何を食べるかになると、他の人がみんな蕎麦だといっても、「俺はカツ丼!」みたいに、自分が食べたいものを食べる(向かう)人がいます。これとは逆の人もいます。お昼ご飯なんか何でもいい。とにかく、お腹がすくのを「避ける」ことができればいい。というけれど、家の購入に関しては、「将来、家族でこんな風にすごしたいから」「休みの日に自宅で○○するため」こだわる人。テーマが大きいことと小さいことで、タイプが違うという例です。
仕事のプロジェクトでも、そうかもしれません。大きいプロジェクトは失敗しないようにやる(避ける)けれど、小さいプロジェクトは、実験的にする(向かう)。これが逆パターンの人もいて、大きいプロジェクトでは面白いことを狙って、小さいプロジェクトでは細かいところまで妙に丁寧に進めていく、という人もいます。
以上のように、テーマが変わるとタイプも変化するのです。
平本 斎藤さんはどっちのタイプですか?
斎藤 僕は「避けるタイプ」だと思います。
平本 例えば、このBiz.IDサイトで、講師やライターが全然集まらず、集まってもクオリティが低くて、うまくいかなかったら、どうですか。
斎藤 めちゃくちゃ辛いです、大変です!
平本 そうですよね。例えば、筆者を捜している状況で、売り込みの人に「筆者がいないために、Biz.IDのページビューが落ちて、読者が減って、評判も悪くなってきたら、どうですか?」と言われたら辛いですよね。そのときに「じゃあ、この講師の方とやってみたら、どうですか?」と薦められると、「ぜひ、お願いします」と、きっとなりますよ。
斎藤 僕はモノを買う場合でも、「避ける」流れの方がピンと来るみたいです。向かうタイプの薦められ方だと、迷って、迷って、迷った結果、買わない、ということになりがちです。
平本 わかりやすいのは、パソコンを買う場合です。パソコンを買うときに、向かうタイプは「このパソコンがあると、こんなに便利になる」「こんなに快適になる」という理由で買います。でも、避けるタイプは、「このパソコンがなかったと想像してみてくださいよ。明日からも、あの壊れかかった古いマシンで、仕事をし続けるなんて大変ですよ」といわれると、「買わなきゃ」という気持ちになるのですね。
斎藤 そうなんです。先日、仕事の関係でデジタルカメラを買ったんですが、「このカメラ、いいなあ」と思うと意外に迷うんです。でも、「今、持っているのが壊れたら、仕事のとき、どうするの?」と自分に言い聞かせていて、そうすると、「買わなきゃマズイ」と思うんですよね。
平本 それが、まさしく避けるタイプですね。
例えば「ディズニーランドに遊びに行こうよ」と、目当ての人をデートに誘う場合に、向かうタイプの人には、ディズニーランドがどれだけ楽しいかを、一緒に話したり、聞いたりすると、相手はその気になります。
「ディズニーシーがこんなに面白いんだって」とか「新しいアトラクションができたよ」という感じで、ディズニーランドやディズニーシーが、どれだけ楽しいかを一緒に話しましょう。
避けるタイプには、「今、ディズニーランドに行っておかないと、寒い季節になっちゃうよ」とか「あの限定のアトラクションが、もうすぐ終わるんだって」という誘い方です。
映画や演劇などだったら、避けるタイプの人には、「その映画、11月いっぱいで終わりだよ」とか「今、行っておかないと、混んじゃって席が取れないかもしれない」というと、「じゃあ、行かなきゃ」という気持ちになります。
向かうタイプだったら、その映画や劇の楽しいところを取り上げます。正反対のアプローチですね。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本相武(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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