キャリアに「目標」は必須ではない自分らしいキャリアを築くために(1/2 ページ)

キャリアや人生を、自分の望むようなものにしていくためには、大きな目標や明確なビジョンが必要だと思い込んではいないだろうか。実は、そうとも限らない。価値観を明確にし、それを満たしていくことで、望みのキャリアを築いていくこともできるのだ。自分のキャリアに迷いを感じている人、必読です!

» 2006年11月21日 15時55分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

自分らしいキャリアを築くために
  連載タイトル
1 キャリアに「目標」は必須ではない
2 判断&行動の基準「What」を明確にする
3 みんな「どうしたら?」は得意だけど……
4 4つのレベルでWhatを引き出す
5 どうやって“What”を引き出せばいいか
6 個人のWhatと会社のWhatの共有ゾーンを広げよう
7 Whatを見つけて、今いる会社でオンリーワンの自分になる

 世間では、何かを成し遂げるにはビジョンや目標が大切だ、とよくいわれます。「5年後、10年後、20年後、どんなビジョンを持っているの?」「目標は何?」と聞かれることも多いですね。

 「まず目標から発想して、今、何をするかを考えるのがいい。だから人生でも仕事でも目標を決めろ」という人がいますし、もちろん、この方法で大成功している人もいます。私が留学していた頃の米国でも、盛んにビジョンだ、目標だといわれていました。

 ところが、日本に戻ってコーチングの仕事を始めてみると、なかなかビジョンを引き出すことができない。そしてそれを、私の引き出し方が下手だからとか、日本人がアメリカ人に劣っているのではないか……という風に考えたこともありました。

 それは本当でしょうか?

 実は日本人が劣っているのではないのです。ただ、ビジョンや目標を決めるとやる気が出る人と、自分らしさや価値観を日々満たしていく方がやる気が出る人、それぞれ両方の人がいるということなのです。この考え方は100%平本オリジナルです。

「価値観型」と「ビジョン型」の2傾向がある

 “目標やビジョンがない”のに、成功している例として、ある町工場の社長さんの例があります。その工場では、その部品がないとNASAのロケットが飛ばないくらい精度の高いものを作っています。にもかかわらず、社長さんにはビジョンも目標もありません。では、何があるのかというと、価値観があるのです。「どうしたら、ここをあと0.01ミリ削れるだろうか」と、「精度」という価値観にしたがって仕事に取り組んでいるのです。日々、価値観を大事にしているうちにすごい結果が出た、といえるかもしれません。

 ですから、目標やビジョンがないからといって、落ち込まないでほしいのです。価値観と目標のどちらかが大事、といっているわけではありませんし、どちらか1つがなくていい、といっているわけでもありません。つまり、

  • 将来の夢や目標から発想したほうが動機付けられる人=ビジョン型
  • 自分のこだわりや価値観に沿って、日々それを満たしているうちに充実した人生を送れる人=価値観型

 この2つの傾向があるのです。別の言い方で、「未来への実現がやる気を引き出す人=ビジョン型」と、「今、大事なものを満たす方がやる気がでる人=価値観型」とも表現できます。

「価値観型」と「ビジョン型」の特徴

 未来を決めて、そこから今を捉えるほうがいい人をビジョン傾向の強い人、毎日毎日、自分の大事なものを満たして積み上げていくほうが、やる気がでる人が価値観傾向の強い人です。

 ビジョン型は、例えば転職するときに、「自分は5年後にああいう仕事をしたい」と考えます。「職場はお台場で、総ガラス張りのビル。モダンなインテリアのオフィスで、こういう人材派遣業をやっていたい。だから今、この会社にいる間に、お金を貯めて技術を身につけよう。そして5年後に独立しよう」と。

 未来に、例えば5年後・10年後に、こうしたい、ということを発想してから、今を考えていくほうがやる気が出る人=ビジョン型です。

 これに対して価値観型は、何年後どうしたいというよりは、「自分にとって今、何が大事か」という価値観を、日々の仕事で満たしているかどうかが大事です。例えば、人材派遣業で経理をやっている女性Aさんの場合を考えてみましょう。Aさんの価値観は、「人に接して人に喜ばれる」ことです。すると、5年後にどの仕事に就くかどうかよりも、人に接して喜ばれることを満たせるかどうかが大事です。彼女は「人に接して喜ばれるのは、きっと研修業に違いない」と思い、研修会社に転職しました。でも「君、経理やっていたんだったら、また経理やってよ」と言われてしまい、この会社でも人に接することができない。これでは、「希望の会社に来たのに、なんで幸せじゃないんだろう、満たされないんだろう」となってしまうのです。

 価値観傾向の強い人にとっては、仕事の業種・職種を特定することは重要ではありません。自分の価値観が満たされるかどうかが大事です。Aさんにふさわしいのは花屋さんかもしれないし、飲食店やレストランかもしれない。今までと全然違う業種かもしれないけれど、そこでAさんなりの「人と接して喜ばれる」価値観が満たされることが大事です。

 部下指導の際の典型例も紹介しましょう。価値観傾向の強い上司が、ビジョン傾向の強い部下に接するときは、こんな風に言いがちかもしれません。「おまえ、5年後とか10年後とか、そんな先の未来の話ばっかりしないで、1日1日の仕事を大事にしろよ」。相手にも自分の傾向を当てはめて、つい、こんな風に言ってしまうわけです。

 逆に、ビジョン型の上司と価値観型の部下だったら、「お前はチマチマしてないで、もうちょっと遠い未来に夢を描けよ」とか、「夢がないんだよ」というように言ってしまうかもしれません。

 ビジョン型のキーワードは「夢」とか「目標」です。その言葉を聞くとビジョン型の人はワクワクするんですね。一方、価値観型のキーワードは「自分らしさ」とか「こだわり」「大事なもの」などです。そのほうが夢とか目標といわれるより、価値観型の人にはしっくりきます。

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