老人から「きみの考える成功のための戦略は何か?」と聞かれた主人公。老人のアドバイスは、「試してみることに失敗はない」というものだった──。
デイル・ドーテン
『仕事は楽しいかね?』(きこ書房刊)
それから彼は、他人を凌ぐ人物になるための2つのルールを示してくれた。
「1つは、“適切な時”とか“完璧な機会”なんてものはないということ。
これは <この場で> <ただちに> 始めるということだ。
もう1つは、パッと浮かぶ考えはたいてい使い古されたものだし、パッと浮かんだわけではない考えの多くもやっぱり使い古されたものだということ。とどのつまりはこういうことだ、<一か八かの掛けをしないなら、チャンスなど1つもない>」(p.84)
2001年の刊行以来、多くの人に読まれている1冊。主人公である会社員(35歳。一度起業したものの失敗し再び会社員をしている)が、季節外れの大雪で足止めを食った空港で、たまたま知り合った老人(発明家・起業家として巨万の富を築き、多くの実業家や政治家と親交がある)との対話が描かれる。物語が進むにつれて、最初は現実に対して諦観を抱いていた主人公の考え方や心構えが、老人の言葉や態度によって少しずつ変化していく様子が追体験できる。
例えば、老人から「きみの考える成功のための戦略は何か?」と問われた主人公は、それまでに読んで感銘を受けた本の内容を思いつく限り話し、その「自己啓発の英知」を1枚の紙にまとめる。そこには「目標の設定」や「新しい自分を築く」といった言葉が並ぶ。しかし、老人はその紙に大きく×印をつけて、代わりに「試してみることに失敗はない」と書いた紙を主人公に手渡す。
あるいは、最初の起業が失敗に終わったことに触れて、主人公が学ぶべき教訓を具体的なエピソードとともに伝えていく。冒頭に引用したのはその一部だ。
ある種の固定観念や常識に囚われている主人公の頑なさが、徐々にほぐされていく過程が描かれている──ともいえる。すでにお気づきかもしれないが、本書の主人公はとりもなおさず読者であり、従って、読み進めるうちに主人公に感情移入する部分があれば──少なからずあるはずだ──、主人公とともに深く納得したり、腑に落ちるといった疑似体験ができる。
BOOK DATA | |
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タイトル: | 仕事は楽しいかね? |
著者: | デイル・ドーテン著 |
出版元: | きこ書房 |
価格: | 1365円 |
読書環境: | △書斎でじっくり ◎カフェでまったり ×通勤でさらっと |
こんな人にお勧め: | 主体的に行動したいと考えている人すべて。 |
さらに、本書で紹介されている教訓の意味は、あなたが置かれている状況に応じて変化する。最初に読んだ時は特に何も感じなかった箇所でも、時を隔てて再び読んでみると、身につまされる内容に感じられたりするのだ。それゆえ、岐路に立たされた時、決断を迫られた時に読み返してみるといい。そのものズバリの答えが得られなくとも、今のあなたがどのような姿勢でいるのかが浮き彫りになるだろう。つまり、本書が自分の今を映す鏡になるわけだ。
また、老人から主人公に向かって投げかけられる質問に対して、「自分だったらどう答えるか」を余白に書き込んでみるのもいいだろう。こうすることで、本書にはあなたの思考の歴史がつづられることになり、読み返す際にその変化や進化を垣間見ることができるだろう。
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