「ビジョン型」のアクションプランに続き、今回から「価値観型」のアクションプランの立て方を紹介します。ビジョン型のアクションプランはビジネス書、自己啓発書などでおなじみですが、価値観型については本邦初公開です!
ビジョン型に続き、今回は価値観型のアクションプランの立て方をご紹介します。価値観型の人は、未来の目標がありありと浮かびません。目標を設定すると、かえって制約されたように感じてしまうこともあります。とはいえ仕事では目標を聞かれたり、設定させられたりする機会が多いですから、目標が見いだせないと不安に思うかもしれません。でも、そんな必要はありません。
ヤンキースの松井秀喜さんにこんなエピソードがあります。彼が占い師に話を聞いたときのことです。松井さんは、過去のエピソードとその意味は熱心に聞くそうですが、未来は聞きたくないそうなんですね。未来を知ったら面白くないから、未来は言わないでほしい、聞きたくない──といったらしいです。つまり、松井さんは価値観型なんです。
また、これは書籍でも紹介した話ですが、松井さんの実家の近くに行きつけの飲食店があって、そこで、三冠王とかホームラン何本とか、毎年目標を書くそうです。でも、1回も実現したためしがないらしいです。それに、そのお店に行くたびに、「オレ、こんなの書いたっけ?」みたいな感じなのだそうです。目標を覚えていないのです。それはビジョン型の人にはあり得ません。自分が書いたら、毎日それを眺めてアクションプランに落とし込むのがビジョン型ですから。松井さんは、世間的に目標を書かなくてはいけないと思うから、一応書くのでしょうね。でも、あまり興味がないみたいです。
このように、目標を持たなくても自分のキャリアを望みのものにすることはできます。価値観型の人は、自分が充実していたと感じられる過去のエピソードを思い出しながら自分にとって大切な価値観を見つけ、日々それを満たすようにした方がいいのです。
価値観型の人には目標がないから、ブラブラとその日暮しでいいということではありません。自分の指針が必要です。その指針を見つけるヒントが何かというと、過去の充実体験です。今まで、仕事をしていてやりがいを感じたとき、プライベートで充実していたときにどんな場面があったかを思い出してほしいのです。
平本 過去に充実していたと感じたのは、どんな場面ですか?
S 僕は5年くらい前から記者をやっていて、その前は雑誌の編集をやっていたんですが、どうしてそうなっているか分からなかったことが、分かるようになるというのが、一番充実している体験なんです。世の中のルールが理解できるようになること、というのでしょうか。
平本 そう感じた具体的な場面を覚えていますか?
S 最近では、携帯電話ってなんでつながるの? というのが自分なりに細かなところまで理解できたときに、すごい充実感がありました。
平本 いつぐらいですか?
S 7〜8年くらい前です。
平本 場所は?
S 取材先で、そこの技術者の方に詳しく教えてもらったんですよ。その方も教え好きで、取材時間はかなりオーバーしましたけれど、分かるまで教えてもらいました。そう言われているから、なんとなくそうなんだ、ではなく、自分で自信を持って「これがこうだから、こういう風になって、だからこうできるんだよ」という風に分かったときは、霧が晴れた感じがしました。
平本 いいですね。
S 自分の中で理解できたと思えた瞬間に、今までの不思議なことも、パッと自分なりに分かるようになるんですよね。例えばCDMAの携帯って、着信はするのに出てみると圏外になるってことありませんか? そういうことがあるんですが、仕組みからするとそういうことは起きるんですよ。
平本 そういうことが分かるということですね。それの何がいいんでしょうか?
S 世の中がなぜそうなっているのかが分かる。仕組みが分かるというのがうれしいんです。
平本 じゃあ、結局自分にとって何が大事ですか?
S 仕組みが分かること。
平本 それは価値観だと思いますね。
S ほかの場合でもそうですね。投資にしてもゲームしても、原理を知ることが好きなんだと思います。ゲームって、なんだかよく分からないけれど、キャラクターが突然死んだりしますよね。ではゲームをうまくやるってどういうことなのかというと、そのゲームの中のルールを自分なりに理解することなんです。そこが面白いと思えるとゲームにハマれる。世の中とか、そのシーンがどんなルールで動いているのか、というのを自分の中で理解できることが、喜びを感じるときですね。
平本 なるほど。ほかにありますか?
S 新しい雑誌を立ち上げたときですね。
平本 それはいつ頃ですか?
S 10年くらい前になるのかな。
平本 前の会社で雑誌の編集をしていたころですね。
S そうです。パソコン誌でした。雑誌の方向性を決めて、予算とかお金に関わることを決めて、取り次ぎ会社に雑誌の内容を説明して、印刷会社と打ち合わせして、スタッフの面接もして……編集以外の仕事もしなくちゃいけなくなって、スケジュールの調整が大変でした。でも、新鮮でしたね。
平本 何がよかったんでしょう。
S それまでやったことのないことができること。
平本 じゃあ、自分にとって大事なことは何ですか?
S 新しいことに触れること、でしょうか。
平本 なるほど。じゃあ、もう1つくらい聞いてみましょう。
S 学生の頃の話でも大丈夫ですか?
平本 いいですよ。いつ頃ですか?
S 高校時代、部活でテニスをやっていた頃ですね。
平本 どんな風にしていましたか?
S 通学に結構時間がかかっていたんですが、朝練習のために早起きして、もちろん放課後も練習。3年生のときに、地区大会で結構いいところまで行けるレベルになって、そのときは勉強そっちのけで練習していました。
平本 具体的に、どんな場面が見えますか? そのときどう感じましたか?
S 夏の暑い午後に、コートがカラカラに乾いていて、練習はすごくきつくて汗だくで、でも、すごい高揚感を感じるというか、集中しているという感じですね。練習していると、日々、自分がうまくなっていくのが分かるような気がしました。
平本 それの何がよかったですか?
S やったらやっただけの成果がでたことでしょうか。がんばってベスト4に残ったとか。あとは、充実感です。
平本 じゃあ結局、自分にとって何が大事ですか?
S 結果は結果でうれしいんですが、今思うと、あれだけ真剣に熱中できたこと、かな。
平本 真剣に熱中、というのは1つの価値観ですね。
このように、過去の充実した体験を、いつ、どこで、誰と、どのように、と思い出していきます。また、何が見えるか、どう見えるか、何が聞こえるか、どう聞こえるかを、ありありと思い出しましょう。充実を感じた場面は、仕事だけでなくプライベートなことでもいいですし、子供時代も遠慮なく入れてください。これを思い出していくと、過去にあった事柄について、「それの何がいいか」というエッセンスが出てきます。そして、自分にとって何が大事かという価値観が見えてきます。
次回は、この価値観をより突き詰めていきましょう。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本相武(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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