マニュアルを作ろうにも作業が多すぎるので困る【解決編】シゴトハック研究所

マニュアル化の際には、その作業を4つに分類し、マニュアル化することで効果の上がる作業を洗い出します。そしてさらに、その作業が“前倒し”できるものかどうかで絞り込みます。

» 2008年04月11日 12時13分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 今回の課題:マニュアル化以前に多すぎる作業をどう整理するか?

 コツ:「備え」になることを優先する


 前回は、業務のマニュアル化に取り組むことによって、次のようなメリットが得られる、と書きました(4月4日の記事参照)。

  • 新メンバーにお願いすることで、オリエンテーションになる
  • 既存メンバーにとっては、仕事を見直すきっかけになる

 つまり、マニュアル化はゴールではなく「業務を見直す」というより大きなゴールに近づくための手段になるわけです。

 今回はさらに一歩進めて、実際にマニュアル化に推し進めていく上で起こりがちな問題を考えていきます。具体的には次のような問題です。

  • マニュアル化の対象となる業務の量が多すぎる

 つまり、マニュアルというドキュメントを作る前段階として、マニュアル化の対象となる業務を取捨選択する必要があるわけです。

作業を4つに分類する

 業務の量が多すぎる場合、本来ならしなくてもいいムダな作業が含まれている可能性を疑ってみます。具体的には、現在行っている作業をその性質によってグループ分けしていくことです。『7つの習慣 最優先事項―「人生の選択」と時間の原則』の書評でもご紹介した以下のマトリクスを使うといいでしょう。

  緊急 緊急ではない
重要 第一領域
●危機や災害
●差し迫った問題
●締め切りのある仕事、会議
●病気や事故
●クレーム処理
●壊れた機械の修理
●むずかる赤ん坊
第二領域
●豊かな人間関係作り
●健康的な身体作り
●準備や計画
●予防
●価値観の明確化
●勉強や自己啓発
●真の意味でのレクリエーション
●エンパワーメント(自発性)
重要ではない 第三領域
●さまざまな妨害・邪魔
●多くの重要でない電話
●多くの重要でない郵便物や報告書
●多くの重要でない会議
●重要でない差し迫った問題
●みんながやっていること
●突然の来訪
●無意味な接待や付き合い
第四領域
●うわさ話などの暇つぶし
●意味のない活動
●見せかけの仕事
●とりとめのないだらだら電話
●多くのテレビ番組やコミック
●現実逃避
●単なる遊び
●待ち時間

 マニュアル化の対象となる業務1つ1つについて、また業務に含まれる作業1つ1つについて、第1領域〜第4領域のどこに当てはまるかを考えるようにするわけです。

 ここで、この分類作業を進めやすくするために、各領域に次のような名前を付けてみます。

緊急 緊急ではない
重要 第1領域
●憂い
第2領域
●備え
重要ではない 第3領域
●穀潰し
第4領域
●憂さ晴らし

 まず、「備えあれば憂いなし」ということわざがありますが、この関係性が第1領域と第2領域にも当てはまります。例えば、締め切りに追われる(=憂い)のは、事前の段取り(=備え)のまずさに起因するといえます。毎週あるいは毎月繰り返している作業にもかかわらず、いつも締め切り間際に慌てて取りかかっている、ということであれば、「備え」に注力する必要がある、というわけです。

 次に第4領域は「憂さ晴らし」。これは「憂い」と対になっており、締め切りに追われる仕事が続くことによって、「現実逃避」をしたくなる衝動を思い浮かべていただければ分かりやすいでしょう。「憂さ晴らし」は、その原因である「憂い」を減らすことでなくすことができます。

 最後に第3領域は「穀潰し(ごくつぶし)」。せっかく苦労して蓄えた「備え」を無駄にくいつぶす行為です。例えば、月末になって大量の領収書の束を前に、「これは何の支払いだったかな?」と関連する書類やメールをひっくり返して探すはめになった時、このような“探索作業”にかかる時間が「穀潰し」ということになります。大量にため込まないうちに、そして何の支払いか分からなくなってしまわないうちに、こまめに処理しておけば防げるはずです。つまり、普段からの「備え」が予防になるわけです。

必要な作業を見極めるには?

 こうして、「備え」に当てはまる業務あるいは作業をえり分けることができたら、さらに絞り込みをかけます。次のマトリクスを使います。

前倒しして進められる タイミングが限られる
自分 1.優先する(=備え) 3.スケジュール管理(=憂い)
他人 2.相談する(=準備) 4.マニュアルとチェックリスト(=備え)

 まず、前倒しして進められるのか、タイミングが限られるかという視点です。例えば、月末や月初に直近1カ月間の売上実績をリポートにまとめる、という業務の場合、この業務に含まれる作業は次のように大きく2つに分けられるでしょう。

1.前倒しで進められる

  • リポートに盛り込むトピックを個条書きでメモしておく
  • フォーマットや定型句を定めるなど作業全体を標準化しておく

2.タイミングが限られる

  • 売上実績を集計する(=集計対象期間中は着手できない)
  • 印刷する(=リポートが完成しないと着手できない)

 タイミングが限られる作業については動かしようがありませんから、動かせる作業、すなわち前倒しで進められる作業に注目します。どの作業を前倒しするかを決める基準は、事前にやっておくと後で楽になるかどうかです。発生都度処理するのではなく、ある程度の量をまとめておいて一括処理した方が早い場合もありますから、実際の業務に照らして判断します。

 とはいえ、「まとめて一括処理」という言葉にはたいへん魅力がありますから、本当にそれが効率的なのかは注意が必要です。例えば、領収書10枚分を処理するのと、100枚分を処理するのとでは、どちらがためらうことなく取り組めるかを考えてみることです。もしためらいが生じるとしたら、その過程には「問題の先送り」があったことになります。

 次に、自分にしかできないのか、他人でもできるのかの視点です。業務単位で考えていると、

 「経験に基づいた判断が要求されるので、誰かにやってもらうのは難しい」

 と判断してしまうかもしれませんが、作業単位であれば、

 「この部分だけなら、切り出して誰かにやってもらうことは可能」

 といった負荷分散の余地を見いだすことができます。

 以上をまとめると、マニュアル化の対象を絞り込む上での基準は、「自分でなくてもできて、やっておくと後で楽になること」ということになります。

 普段からコツコツと備えておけば、後で楽になる、ということは頭では分かっているものです。しかし実際にやろうとすると、つい面倒に感じてしまうことがあります。そこで、今回ご紹介したようなマトリクスを使って、「これはできる」「これはできない」などと機械的に振り分けていくことによって、自らの行動にブレーキをかける感情を抑えることができるでしょう。

 そして、業務の改善は、この振り分けのプロセスにあるといえます。優先すべき作業を浮かび上がらせ、やらなくてもいい作業を排除することになるからです。

筆者:大橋悦夫

1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタリハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』、近著に『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』がある。


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