第8回 ようやくスタートライン奇跡の無名人たち(2/2 ページ)

» 2008年10月08日 10時30分 公開
[森川滋之,ITmedia]
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 「みんな、聞いてほしい。ぼくはみんなに謝らないといけない」。全員の視線が、和人に集中した。

 「クオーターやみんながあきらめずに頑張っている間、ぼくはあきらめていたんだ。ぼくのヨミでは100回線どうしても足りなかった。で、営業本部にどうやって言い訳して存続を認めてもらおうか、そればかりを考えていた。営業は結果だ。それなのにぼくは言い訳だけ考えていた。そんなものが通るわけがない。でも、それに賭けるしかないと思い込んでいた」

 時計の音がうるさいほど会議室は静まり返ったが、誰も時計の音など耳に入っていなかった。

 「ぼくは正直、この営業所に来た時にだまされたと思った。今回の仕事は、シェア奪還のための営業。これは商品の中身をよく知ったベテランでないと難しい仕事だ。なのに、全員が営業は初めてというシロウトばかり。無理だと思った。でも、みんな頑張ってくれた。1カ月目が終わった時は手応えを感じていたんだ。なのに、営業本部長からの呼び出しで、今月の目標が達成できなければつぶすと宣告された。ぼくは、その時点であきらめてしまったんだ」

 「誰も所長を責めてないよ」「所長はみんなをかばってくれました」「吉田さんでなきゃ、ぼくは辞めていた」。みんな口々に和人を励ました。和人は、うれしくもあり、情けなくもあった。両方の感情の入り混じった涙が目からあふれ出した。

 「今回クオーターは、いやクオーターだけでなくみんなが、ぼくに営業の原点はあきらめないことだというのを教えてくれた。みんな本当にありがとう。そして、すまなかった」

 拍手が鳴り止まない。その間、和人はずっと顔を伏せていた。鳴り止むまで、実際は30秒もなかったが、和人には5分ぐらいに感じられた。

 和人がようやく顔を上げると、それを待っていたアネゴが言った。「みんな、営業所がようやく1つになれたんだよ。良かったじゃない。これがスタートライン。ここから日本一を目指そうよ」

 全員がいっせいにうなずいた。和人もこのメンバーならやれるかもしれない、と思った――。


 筆者の森川です。連載「奇跡の無名人たち」、ここまでのお話いかがでしたか? この後、和人の営業所は、本当に日本一を目指さないといけない事態になってしまいます。今度は大口兄弟が奇跡を起こします。

 次回以降、少し解説を挟んでから、お話を再開します。題して「大口兄弟の伝説」。お楽しみにお待ちください。

吉見範一氏、「勝てる市場創り」セミナーのお知らせ

 連載「奇跡の無名人たち」の元になった話があります。それが、ぼくのビジネスパートナーである吉見範一氏から聞いた話なのです。この“法人営業の達人”である吉見氏によるセミナーを、以下の日程で開催します。ご興味ある方はぜひご来場ください。

  • 日にち:10月17日(金)から全5回
  • 時間:19:00〜21:00 ※開場18:30
  • 場所:JR大井町駅近辺
  • 参加費:3万1500円
  • 懇親会:別途開催予定

申し込みページはこちら

連載「奇跡の無名人」とは

 筆者の森川“突破口”滋之です。普段はIT関連の書籍や記事の執筆と、IT関係者を元気にするためのセミナーをやっています。

 Biz.IDの読者には、管理や部下育成といったことや、営業など専門知識以外のビジネススキルに関することなどに関心を持ち始める年代の方が多いと聞いております。

 そういう方々に役に立つ話として、実話をベースにした物語を連載することになりました。元ネタはありますが、あくまでもフィクションであり、実在の団体・人物とは関係ありません。

 今回の物語は、ぼくのビジネスパートナーである吉見範一さんから聞いた話を元にしたものです。ある営業所の若い女性が起こした小さな奇跡について書きます。営業経験がなく、日本語が達者じゃないのに法人営業に成功した話が始まります――。

著者紹介 森川“突破口”滋之(もりかわ“とっぱこう”しげゆき)

 大学では日本中世史を専攻するが、これからはITの時代だと思い1987年大手システムインテグレーターに就職する。16年間で20以上のプロジェクトのリーダー及びマネージャーを歴任。営業企画部門を経て転職し、プロジェクトマネジメントツールのコンサル営業を経験。2005年にコンサルタントとして独立。2008年に株式会社ITブレークスルーを設立し、IT関係者を元気にするためのセミナーの自主開催など、IT人材の育成に取り組んでいる。

 2008年3月に技術評論社から『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、7月には翔泳社から『ITの専門知識を素人に教える技』(共著)を上梓。冬には技術評論社から3冊目の書籍を発売する予定。


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