毎日気絶するぐらいまで、禁煙の教材作りに没頭した主人公の金田。教材はできたものの、ほかの人が認めてくれなければどうしようもないし、販売ルートもない。教材ができただけで有頂天になるなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう……。
この物語は、マイルストーンの水野浩志代表取締役の実話を基に再構成したビジネスフィクションです。事実がベースですが、主人公を含むすべての登場人物は作者森川滋之の想像による架空の人物です。
会計事務所の事務員として働いていた主人公の金田貴男。会計士ばかりの職場に反発して友人と起業したものの、あえなく倒産し、1500万円の借金を背負う。酒とパチンコだけの引きこもり状態だったが、一念発起して禁煙に“成功”。友人の禁煙も手助けするため資料を製作したところ、意外と資料の出来がよさそうだ。タバコがやめられる50ページのリポートを5000円でなんていうのは儲かるかもしれない――。
毎日気絶するぐらいまで、禁煙の教材作りに没頭した。机のそばに布団を敷いて、いつでも寝られる状態にしてたのだけど、気がついたら机の上に突っ伏して寝ていたこともしばしばだった。
ようやく出来上がったときには、すっかり日が短くなり、テレビをつけたら、どこそこで紅葉が見ごろだというニュースが流れていた。原稿を見直して、布団にもぐりこみ、ほぼ2日間熟睡した。
目が覚めたときは「あ、いかん、いかん、寝てしまった」と飛び起きて、机に向かい、そういえば書き終わってたんだと我に返った。時計を見ると5時ちょっと前。まだ夜明け前だった。こういうのって、起きてから見直すと恥ずかしいんだよなと思いつつ、読み返してみた。
ぜんぜん大丈夫。我ながらよく書けている。この通りにやれば、かなり意志の弱いやつでも禁煙できるはず。完成度は高いと思う。ここにきて、ようやく達成感がわいてきた。よくがんばった。この1カ月の自分は、本当に誉めてやりたい。
タバコをやめたあと、ちょっと太ったけど、このところ酒も飲まずに頑張っていたので、スリムになった気がする。そういえば、酒も欲しくなくなったなあ。
久しぶりに穏やかな気持ちで、ゆったりと1日を過ごし、夕方から1人で祝杯を上げにいった。かみさんに一緒に祝ってほしかったが、まだ何の実績も出ていないので、誘う勇気が出なかった。教材が売れ出したら、あらためて誘うことにしよう。
翌日。
教材はできたけど、どうやって売ればいいのか、さっぱり分かっていないことに気づいた。みんなどうやって売っているのだろうか?
それと、我ながらいい方法だとは思うのだが、考えてみたら自分と友人の竹下以外に成功例はない。たまたまうまくいっただけかもしれない。竹下に至っては、俺が成功したから意地になってがんばったのかもしれない。金田にだけは負けたくないって。
いくら作った人間がいいと思ったって、ほかの人が認めてくれなければどうしようもないし、また認められたとしても販売ルートがないんじゃどうしようもない。教材ができただけで有頂天になるなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう……。
ん? 待てよ。これでも進歩してるんじゃないか? たぶん、以前の俺だったら、販売ルートがないとか、成功例が少なくて説得力がないとか、そういうネガティブなことばかり先に考えて、どうせ俺には無理って結論になってたに違いない。それを、とにもかくにもできることに集中したのは、かなりの進歩じゃないか。
分からなければ、調べればいいんだ。実際に、情報商材を売っている人がいるのだから、俺にだってできないわけがない。本屋で1日調べて分かったことは、インターネットでモノを宣伝するにもいろんなやり方があるということだった。(注)
まずは、ショッピングモールに出店すること。モールを主催している会社があって、そこがある程度宣伝してくれるのだが、これは普通の店舗を持つことを考えればとんでもなく安いけど、今の俺にはちょっと出せる額ではない。
バナー広告というやり方もあった。バナーという小さな画像に宣伝文句を書いて、クリックしてもらうと宣伝用のホームページに飛ぶというやり方だ。人がたくさんやってくる、ポータルサイトって言うんだっけ(?)に載せてもらわないと意味がないのだけど、人がたくさん来るページは当然高い。
そこで検索エンジンの上位に出るようなホームページを作るというやり方があるらしい。SEO対策というそうだ。ホームページを作ること自体は、いちおうITの心得があるので安くできるのだが、SEO対策は難しく、プロのコンサルに頼まないとうまくいかないようだ。これもピンきりだけど、やっぱり高い。
以前の俺なら、やっぱり広告宣伝には金がかかるんだとあきらめてたところだけど、なんとかほとんど金をかけずにできないかと思って、調べまくったよ。そうしたら、一つだけ候補が見つかった。
なんでも「まがまが」という会社が、無料でメールマガジン、略してメルマガを発行できるしくみを提供してくれているらしい。それで、まがまががどうやって儲けるのかはよく分からないのだけど、まがまがを使って情報提供をしながら、自社のサイトに来てもらい、モノを売っている人たちがいるという話なんだ。
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