放射性廃棄物の受け入れはお金で解決できる?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(2/6 ページ)

» 2012年06月06日 19時45分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

「裕福な学生の寄付金を貧困な学生の奨学金に」に納得できる?

サンデル マサコにちょっと提案をしたいと思います。こう主張すれば、ケンジも納得するかもしれませんよ。ちょっと私が助けてあげましょうか。

 例えば、集めた寄付金は新しい教授を雇い入れるために使うのではなく、優秀な学生、特に貧困な家庭で育った優秀な学生に奨学金を与えるのはどうでしょう。つまり裕福な家庭の学生は寄付金で入学し、そのお金で20人、成績は優秀だけど貧しい学生に奨学金で入学してもらうんです。これならばどうでしょう? その主張をしたらケンジは納得するでしょうか?

ケンジ(反対) その方法であれば、10%という寄付金を使わなくても税金という良い手段があるわけです。あるいは福祉政策というのもある。高所得者の税金を高くすれば、そのお金で貧しい世帯の学生の授業料に当てられます。すなわち直接的なお金の取引でなくてもいいと思うんです。

サンデル では民間の私立の大学だったらどうですか?

ケンジ(反対) 同じです。

サンデル 私立の大学でも、市民に税金をかけて、奨学金を学生に与えるんですね。分かりました。マサコとケンジに感謝します。

「成績優秀なら50ドル」はありかなしか

サンデル さて、今回の議論でもお金の役割について意見が分かれていました。お金の対象となっている高等教育へのアクセス、そしてそれ自体をお金で売り買いすることで価値が損なわれるかどうか、です。

 実際、市場メカニズムを教育に使うのは、成績があまり良くない学生の動機付けをする試みとして一部で行われているんです。米国の多くの学校区域で、貧しい家庭の生徒のやる気を引きだそうとして、現金のインセンティブを使っています。

 つまりこうです。テストで高い点数を取った生徒に対し、成績がAであれば50ドル、Bであれば40ドルを与えるのです。これはニューヨーク、シカゴ、ワシントンD.C.、そしてダラス(テキサス州)でも試みられています。実際にどうなったか、それは後ほどお答えします。

 まずは似たような例の話で、皆さんに質問をしてみたいと思います。

あなたはある学校区域の教育委員長です。地域の生徒に現金でインセンティブを払うことで、よい成績を取ろうという気持ちや、もっと本を読もうという気持ちにさせよういう意見がありました。これは検討に値しますか?

 サンデル氏は再び、会場の聴衆に赤と白のパンフレットを掲げさせた。

サンデル やはりかなり半々近くに意見が分かれていますね。反対が大多数のようですが、検討に値する、賛成という人もかなりの数がいます。まずは反対意見の人に聞いてみましょう。なぜ反対意見なのですか?

ミツヒロ(反対) そうですね、お金は確かに大事で、貨幣経済が成り立っている中ではお金が常に身近にあると思います。けれど、あくまでもお金は自分の外にあるものであって、自分の能力や内側にあるものではないと思うんですね。本を読むとか能力開発においては、自分の内側のモチベーションが大事です。例えばサンデル教授みたいに面白い講義をするとか、そういうことが大事なんです。

 本を読むことでお金をあげるというのは「何かをすればお金がもらえるのが当たり前だ」という潜在的な意識付けになってしまい、むしろ教育的にはマイナスだと思います。だから反対です。

サンデル あなたのお名前は? ミツヒロですね。ミツヒロは生徒に「学習をしたい」「読書をしたい」という内なる動機付けを狙うべきであって、お金のインセンティブ(お金を払うこと)で間違った教育になることを心配しています。この意見が違う、反論したいという人いますか? どうぞ。

リサ(賛成) 私がお金のインセンティブがいいかなと思ったのは、きっかけは何でもいいから、本を読む面白さに目覚めれば、それでしめたものではないか、ということです。常にお金がモチベーションではダメだと思いますが、家のお手伝いのようにお金をもらえるから必ずやるんではなくて、お金をもらえるという市場のメカニズムは知りつつ、自発的にしようと目指していけばいいと思います。

サンデル お名前は? リサですね。ではリサ、あなたは家でお手伝いをしてお金をもらいましたか?

リサ いいえ。

サンデル ではいい成績を取ったらお小遣いをもらいましたか?

リサ そういうチャンスがあったらそうしたかもしれませんが、そういうチャンスはありませんでした。

サンデル ということは、成績が良くなかったということかな〜?

リサ ただ、私はいい成績をとったらダンスを続けてもいいと、親から別の条件をもらって、勉強を頑張ることで勉強の楽しさに気付きました。だから、別にそれがお金でもいいのかなと思います。

サンデル 分かりました。ではミツヒロはどうでしたか? 両親から良い成績を取ればお小遣いがもらえましたか?

ミツヒロ 小学生のときに、テストで100点を取ったら500円をあげるよとは言われました。

サンデル それでいくらもらいましたか?

ミツヒロ いや、80点とか90点はいくんですけど、ノーミスで100点はいうのは難しかったので、結局0円でした。

サンデル 残念でしたね〜。では自分の子供にはどうしますか? いい成績を取ればおこづかいをあげますか?

ミツヒロ 勉強に教育費は必要だと思いますが、やはりインセンティブとしてお金を使うのは、反対です。子供が勉強の本質そのものの面白さに気付けるように、難しいとは思いますが、勉強は楽しい、将来こう役立つということを教えるのが親としての役割ではないかと思います。

サンデル 分かりました。皆さんも同感だったと思うのですが、ただリサはこう言っていましたよね。生徒たちがまだ学ぶ喜びを理解していない場合には、おこづかいをあげることによって、そのことに気が付くキッカケになるかもしれない。その後、学ぶ喜びを取得するかもしれないと。

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