放射性廃棄物の受け入れはお金で解決できる?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(3/6 ページ)

» 2012年06月06日 19時45分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

学ぶキッカケ作りにお金を使うのはいいこと?

サンデル つまりリサが言っていたのはこうです。読書習慣が付くまでの最初のころは、1冊読めば2ドル払うのはいいと。お金がそういうきっかけ目的に使われて、結果として習慣が付いて学ぼうという姿勢が出てくる。それで生徒も喜びを見いだすとしたらどうでしょう? ミツヒロはどうかな?

ミツヒロ (少し沈黙)……キッカケだとしても、やはりいつかお金をもらうことから離れていく必要があるときに「あの時はよかった。読めばお金をもらえた」と後ろめたさを残してしまうと思います。勉強は外から何か与えるのではなくて、自身でモチベーションを発生させる仕組みを作る必要があるのではないでしょうか。

サンデル 分かりました。今の意見の食い違いは、私が理解した限りでは、いくつかの異なる立場がありますね。まず、学びに対する究極的な目標では意見が分かれていませんでした。そして、そこに到達するのに「喜び」「内なる動機付け」が必要であるとする考えも同じだったと思います。ただ意見が分かれたのは、お金が果たす役割です。

 お金で悪い習慣を育ててしまうと、悪い教育になってしまう。それともお金を使うことによって、やがてはいい動機に結び付くかもしれない。この点で意見が分かれていました。

 ではさっき紹介した実験について結果を述べましょう。

ニューヨークやシカゴ、ワシントンD.C.では、生徒に勉強のやる気や読書習慣を身に付けさせるために、成績がAであれば50ドル、Bであれば40ドルというように金銭的インセンティブを払うことにしました。またダラスでは、本を1冊読む度に2ドルあげる、という試みをしました。

サンデル 結果は……地域によってまちまちでした。ニューヨークの場合、良い成績の生徒に報酬を払う方法を取りましたが、結果、生徒の成績は上がりませんでした。ところが、本を1冊読めば2ドル与えるとしたダラスでは、地域の生徒が本を以前より読む結果に結び付きました。ただ残念ながら、短い本ばかり読むという習慣にもなってしまったのですが……。(一同苦笑)

サンデル 金銭的インセンティブには、より大きな問題があります。非常に面白い議論でしたね、ミツヒロとリサに感謝します。ありがとう。(会場拍手)

お金をもらってお礼状を書く子供

サンデル さて、今の議論の中でより大きな問題が浮き彫りになってきました。つまり、お金をインセンティブとして使うことで、どういう教訓を得ることになるのか、習慣を身に付けることになるのか、ということです。

 お金がきっかけで習慣になるのか、本当の動機付けや学習意欲につながるのか。それとも、お金を払うことで間違った教訓となり、自分のためという本来の勉強意欲が湧かなくなってしまうのか。

サンデル ここで、1つお話をします。私の友人が、子供達にお礼状を書くと、お礼状1通につき1ドル払うという試みをしていました。夕食会に招かれた、あるいは贈り物をもらったときに、お礼状を書かせるためです。私もその子たちからお礼状を受け取ったことがあります。そして読むと、無理やり書かされているのが伝わってくるんです。

 妻と私は、そのことについてそれほど悪いことだとは思いませんでした。しかし、子供達が今後どう育っていくのかには関心を持っていました。

 2つの可能性があると思います。1つ目は、お礼状を書く習慣が身に付いて、大人になっても本来の感謝の気持ちを表すためにお礼状を書くようになるんです。その場合には、リサが言うようにお金を払うことで、それがきっかけとなり習慣付けられたと言えますね。本来の目的のためにお礼状を書くようになります。

 2つ目は別の可能性として、ミツヒロが言ったようにお礼状は嫌々書くもので、お金をもらうことでやっと書く気になるという例です。金銭的インセンティブを払うことで、道徳的には間違ったことを教えていたことになります。子供には感謝の気持ちを表すためにお礼状を書くのだということが伝わっていません。

 ではこの2つの可能性の結果どうなるのか。お金を払うことがきっかけで、本来の目的につながる。もしくはお金を払ったことによって、目的が堕落してしまって本来の目的が果たされない。この2つに分かれてしまいますね。

 実はこのことは、子供の勉強意欲、読書習慣、お礼状を書くことだけに当てはまることではないんです。ある社会的に重要な意思決定にもかかわってきた実例がありました。金銭的インセンティブによって、秀でた目的を閉めだしてしまったのです。

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