手を伸ばせば届きそうなリアル感――「現実×仮想」が生み出すビジネスの可能性ソニーのHMDプロトタイプ

幾度となく取り沙汰されてきた「バーチャルリアリティ」。AnimeJapan 2014ソニーブースでの体験は、新たなビジネスモデルの到来を予感させた。

» 2014年03月26日 15時00分 公開
[渡辺まりか,Business Media 誠]
 「HMZ-T3W/T3」公式サイト

 HMD――最近、この3文字のアルファベットをよく見かけないだろうか? 検索してみると、検索結果上位にはHMDとともに「SONY(ソニー)」の文字が並ぶ。

 HMDとは、ヘッドマウントディスプレイの略で、頭に装着して使用する。メガネやゴーグルのような形をしているが、あくまでもディスプレイの一種であり、最近はやりのウェアラブル端末とは別物である。

 ソニー製HMDの最新機種「HMZ-T3W/T3」(T3Wのソニーストア価格は9万9800円/税込)は、プレイステーションやブルーレイディスクレコーダー、Xperia(スマホ/タブレット)などとHDMIケーブルで接続できる。頭に装着し、バンドをしっかりと締めて固定して映像を流せば、目の前で大迫力の3D映像を堪能できる。

AnimeJAPAN 2014 AnimeJAPAN 2014会場

 HMDを装着した状態でユーザーが体を動かすと、それに合わせて映し出される映像も追従するような世界を体験できないものだろうか? そんな近未来体験を実現する“次世代”HMDが、東京ビッグサイトで開催されたイベント「AmimeJapan 2014」(2014年3月22〜23日)に展示されていた。

 「HMZ-T3W」をベースにしたプロトタイプでは、製品版のように3D映像が飛び出して見えるだけでなく、筆者が右を向けば右側の映像を、上を向けば上部の映像を映し出す。あたかも自分が映像のにいるような感覚――このとてつもない没入感を味わうために、ソニーブースの外まで長蛇の列ができていたのだった。

装着場面 コンパニオンの指示に従って装着する体験者

 用意された2種類のデモのうち、筆者はアイドル育成ゲーム「アイドルマスター(アイマス)」の世界を味わえるものを選択。ゲームに登場する芸能事務所「765プロ」の室内を、プロデューサー気分(※)で満喫した。

※編集部注:アイドルマスターでは、プレイヤーが芸能事務所のプロデューサーとなり、さまざまなタイプの女の子をアイドルとして育てていく

 映像が流れ始めると、そこは事務所の中央。声が聞こえる方向に頭を向ければ、ゲームに出てくるキャラクターたちがソファで、窓際のデスクで、あるいは事務所の入り口でしゃべっている。上を向けば天井が、視線を落とせばソファでくつろいでいる女の子たちが視界に入り、走り回るキャラクターを追いかけることもできる。

 約1分半の映像だったが、作品の中に自分がどっぷりと“入り込む”感覚を味わえた。

バンダイナムコゲームス公式の「アイドルマスター」PV。前半の事務所内の映像をさらに作りこんだものを上映していた

3DVR技術がビジネスシーンを変える日も近い?

 この圧倒的なまでの没入感を生み出しているのが、「ヘッドトラッカー」と呼ばれる特殊なセンサーだ。装着した人の頭の動きを感知して、それに応じた映像をディスプレイに映し出す。ソニーによれば、現時点でヘッドトラッカーを搭載したHMDの販売予定はないという。だが、この3Dバーチャルリアリティ(3DVR)技術、エンターテインメントだけでなく、ビジネスシーンでも応用が効きそうだ。

 例えば、店舗やオフィスなどのインテリア設計。図面から3Dデータを作り、バーチャルリアリティ技術を使って店の中を“歩いて”みる。実物を作る前に使い勝手などの検証ができれば、完成度は高くなる。

 あるいは、モデルルームやショーケースのような使い方もできそうだ。例えば、ハウスメーカーは、日本各地にモデルルームを作り、チラシを配り、人を集める。そして、販売が終わればモデルルームを取り壊す。当然、この費用は販売価格に上乗せされている。ITを活用することで、コスト削減につなげられそうだ。

 さらに、モデルルームは室内の様子しか分からない。大規模マンション開発であれば、エントランスや共有設備もウリの1つだ。もっと規模を大きくすれば、周辺外観なども含めた都市デザインにも応用できる。

 現状、ハウスメーカーは、モデルルームに来てもらった見学者に対するセールストークで、いかに家を買いたい気分にさせるかどうかという、きわめて属人的な営業手法が幅を利かせている。3Dバーチャルリアリティ技術はそれを変え、新たなビジネスモデルを生み出す可能性を秘めている。

 これまでも、3DVRを利用したさまざまなビジネスが浮かんでは消えていった。一時、夢中になったとしても、やがて仮想空間との距離を感じ、熱が冷めてしまったのかもしれない。それはまるで人とディスプレイを隔てる距離のようでもある。しかし、没入感の強いHMDであれば、その問題も解消されるのではないだろうか。提供されるコンテンツによっては、ずっとそれを体験していたくなるかもしれない。

 今後、ユーザーの上下/前後への動作対応や、指の動きなどにも対応すれば、さらなる活用が期待できそうだ。

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