「やりたい仕事」を選ばせれば、部下は“やる気”になるのか?そのひとことを言う前に(1/2 ページ)

部下に積極的に仕事に取り組んでほしい――。そう思う上司は多いはず。「やりたい仕事を選ばせればいいのでは」と考える人もいるかもしれませんが、そこには意外な落とし穴が……。

» 2014年10月24日 06時30分 公開
[岩淺こまき,Business Media 誠]

連載「そのひとことを言う前に」

 職場で感じるストレスの原因は、うまくコミュニケーションがとれないことによるものが多いようです。本連載では、伝え方や接し方、聴き方に至るまで職場でよくあるエピソードをもとに、仕事や物事がより円滑に進むようなコミュニケーションや考え方のヒントをご紹介します。言葉を受ける側の立場や気持ちを理解し、自分が発する言葉について見直してみてはいかがでしょう。


 「指示待ちではなく、自ら積極的に仕事をしてほしい」――。リーダーなら誰でも、部下にそうあってほしいと思うもの。実際、部下の自主性を高めるためのさまざまな手段やノウハウが、研修や書籍、セミナーなどで紹介されています。その1つに「部下に仕事を選ばせ、宣言させることで自主性を促す」という方法があるのはご存じですか。

 仕事をする際には、前もって目標を立てることがほとんどですが、自分1人では甘えや怠けが出ることがあります。皆さんもそういった経験はありませんか? そんなときには、目標を人前で宣言するのが有効です。責任が生じ、宣言した本人が“目標に向かう行動力や努力が増す”傾向があります。

 宣言を聞く相手が多ければ多いほど、この効力は高まります。例えばアイドルが大勢のファンの前で「来年は1位になります!」と言えば、ファンの期待という責任が生じ、頑張らざるを得なくなる――そんなイメージです。このような効果を心理学用語で「コミットメント効果」と言います。

 というわけで、部下のやる気や自主性を高めようとするならば、その部下にやりたい仕事を選ばせ、人前で“これをやります”と宣言させるのが有効です。こういった話をすると「これならできそうだ」と思う人も多いと思いますが、注意すべき点があります。とある研修の受講者から「会議で部下にコミットメント効果を使おうとしたが、逆にモチベーションを下げてしまった」という話を聞きました。

上司A: みんなの担当顧客を新しく割り振ろうと思うんだけど、Bさんにはやりたい顧客を担当してほしいんだ。どこを担当したい?

部下B: そうですね。○○社を担当してみたいです。

A: あー。○○社は、Cさんに任せようと思ってるんだ。

B: そうですか。では、△△社を担当してみたいです。

A: △△社は最大手だから、私が担当しようと思ってる。

B: では、◎◎社はどうですか?

A: ◎◎社かぁ、◎◎社はなぁ……。実はBさんには、××社を担当して欲しいと思ってるんだけどね

B: (はぁ? という顔)

Aさんが失敗してしまった理由

photo あらかじめ立てていた計画が裏目に出てしまう場合もある

 Aさんは担当顧客を割り振る会議で、部下であるBさんのやる気を高めようと、顧客を選ばせ、宣言させようとしていますが、結果的に自主性を高めるどころか、Bさんのモチベーションを下げ、怒らせてしまいました。

 このケースにおける問題は「リーダーが事前に計画を立てている」こと。リーダーがコミットメントを仕掛ける際の“落とし穴”はここにあります。「仕事なんだから計画を立てるのは当たり前」と思うかもしれませんが、自分が予定した顧客以外を認めないのなら、この手段は使うべきではありません。

 というのも、コミットメント効果を高める重要な要素として「自分の“意志”で選ぶ」というものがあるためです。

 今回のケースで、AさんはBさんに「選んでよい」と言いながら、選択の余地を与えていません。Bさんは、「○○社は(Bさんではなく)Cさん、△△社は(Bさんではなく)Aさん」と顧客を選ぶたびに否定されています。こんな言い方をされれば、モチベーションは下がる一方。最後にダメ押しで「××社を担当してほしい」とくれば、「最初から決まってるんなら、さっさとそう言えよ」と頭にくるのも当然でしょう。

 では、どうすればBさんのやる気を高める方向に持っていけるのでしょうか。

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