アイデアはくだらなくたってかまわないビジネスチームハック

何か課題を解決しようと思うとき、人は「目から鱗が落ちる」ような素晴らしいアイデアを求めがちです。そして、それが出ないことを言い訳にして問題を先送りしてしまいます。

» 2015年02月13日 11時30分 公開
[佐々木正悟,Business Media 誠]

 経済学者の表三郎さんは著書『日記の魔力―この習慣が人生を劇的に変える』の中で、多くの本が読みかけであることに気付き、その対策を立てたというエピソードを紹介しています。

 三十冊ぐらいかな、と思い一覧表をつくってみると、なんと九十冊もの本が読みかけのまま放ってあることがわかった。

 これはいけない、「最後まできちんと読もう」と決意したのだが、実はここからが大切なのだ。「最後まできちんと読もう」だけではダメなのだ。

 ここで終わってしまうと、きちんと読もうと思っていたのにできなかった、ということになる。

 似たようなことは、チームで仕事をするうえで経験することも多いのではないかと思います。筆者も派遣社員時代、ミーティングに出席していて「●●ではいけない。これからは××するように気をつけよう!」と何度も何度も耳にしましたが、具体的に何かが改善されたという事例は2年間に7回程度でした。

 改善すべき状況があるのに具体的には何もされない――そうなる理由の1つとして、私達は「アイデア」にこだわりすぎる傾向があるように思います。

アイデアがくだらなくても問題ない

日記の魔力―この習慣が人生を劇的に変える 『日記の魔力―この習慣が人生を劇的に変える』

 表さんが読みかけの本を放置せず、きちんと読むようにした対策には、「どんな本でも五十ページまで読むという方針を立てた」と書いてあります。あくまでも個人的な印象ですが、これは読者にそれほど感銘を与える方法ではないでしょう。

 何かきちんとした対策を講じるとなると、私達はちょっと変な発想になりやすい気がします。問題を鮮やかに解決するような「目から鱗の」アイデアを欲しがるのです。

 「積ん読本の対策に何かいい方法はありますか?」と質問に対して、「50ページまでは読みましょう」なんていうどこかできいたことがある回答では「目から鱗」が落ちません。だからやろうとしない。

 でも、それっておかしいと思いませんか? 実際に表さんはこの方法で本をきちんと読み通すようになったのです。

 チームミーティングでも同じような現象が散見されます。目的は「問題を解決すること」のはずなのに、どこかで「斬新なアイデアをひねり出すこと」にすり替わるのです。斬新なアイデアが出るならばそれに越したことはありませんが、本質的にはアイデアが斬新かどうかなんてどうでもいいこと。少なくとも実行することに比べれば価値が高くありません。

 「大事なプロジェクトをメンバーみんなで先送りしているようだ」といった問題に対して、「行動できる大きさにタスクを分ける」とか「毎日10分でいいから手がける」といった対策では、確かに「どこかできいたことがある方法」でしょう。しかし、つまらないアイデアでもいいからまずは試してみるべきです。

人はあまり行動的ではない

脳が教える! 1つの習慣 『脳が教える! 1つの習慣』

 チームに問題があることをほとんどのメンバーが認識しているにも関わらず、「面白味のないアイデアだから」と言って改善に乗り出そうとしないのは、それだけ人が行動的ではないからです。

 斬新なアイデアを求める心理は、「素晴らしいアイデアなら問題をきれいに解決してくれるだろう」と期待しているからではなく、それを耳にすることでモチベーションを高めたいからなのです。

 人間は新奇性の刺激に非常に魅了される動物ですから、「あ! それいい!」と思えるだけでテンションが高くなります。実際にアイデアが優れているかどうかはあまり関係なく、単に意欲を高めたいのです。意欲とはそのくらい低下しがちでもあるということです。

 少し以前にベストセラーになったロバート・マウラーさんの『脳が教える! 1つの習慣』は、「やせるために砂糖を1粒ずつ減らす」だとか「デンタルフロスを1本の歯だけに使う」といった「実行は容易だけど、くだらないアイデア」の宝庫と言うべき本でした。しかしこの本を買った人は多かったでしょうし、一定の変化を成し遂げるヒントを得た人もいたはずです。

 メンバーごとの価値観や態度に温度差のあるチームでは、よりいっそう「実行は容易だけどつまらないアイデア」を試してみたほうが効果が出るのです。

筆者:佐々木正悟

 心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。

著書に『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』『クラウド時代のタスク管理の技術』などがある。

ブログ「ライフハック心理学」主宰。

TwitterID:@nokiba

Facebook:佐々木正悟


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ