尊敬する上司の不正、あなたはどうする? 「創造的な選択」をはばむ人間心理:クリエイティブ・チョイス
あなたは上司の不正を発見しました。上司を尊敬するあなたとしては信じたくない状況です――。「創造的な選択」をはばむ最大の障害は、あいまいな状況に身を置き続けることを不快に感じてしまうという、人間の心理的な傾向です。あなたはどのような選択をするのでしょうか。
連載「クリエイティブ・チョイス」について
問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまってませんか?――。新連載「クリエイティブ・チョイス」は、選択肢以外の「第三の解」を創り出し、仕事や人生の選択において、満足度を高めることを考えます。4月23日発売の書籍『クリエイティブ・チョイス』から抜粋したもので、今回は序章のコラムからです。
「創造的な選択」をはばむ最大の障害は、あいまいな状況に身を置き続けることを不快に感じてしまうという、人間の心理的な傾向です。ここでは本連載のテーマに関係が深い傾向を3つだけ挙げてみます。
こういった傾向は、それだけで善悪を論じられるものではありません。たとえば一貫性によってわれわれはよい習慣を強化していけますが、度が過ぎると頑固で保守的ということになります。
- あなたは上司の不正を発見しました。上司を尊敬するあなたとしては信じたくない状況です。そこで「これは特別に会社から承認をもらっているんだ」という上司の言い訳を信じ、それ以上の確認をあえて避けてしまいます。
このように、矛盾する情報を不快と感じてそれを解消しようとする心の動きは「認知的不協和」と呼ばれます。半世紀以上前に提唱され、社会心理学では広く認められている理論です。この傾向が「創造的な選択」に挑むわれわれにもたらす害は明らかです。われわれは、矛盾を抱えたままにしておくのが不快なので、それが最善だからという理由でなく、心理的に楽だからという理由で選択肢を絞り込んでしまいがちだということなのです。 - 1の続きです。その後疑わしい状況証拠が増え、あなたは上司が不正を行っている可能性も50%はあると感じています。心に感じる矛盾を解消するだけであれば、自分の見方のほうを変えて「不正をしている」と見なしてもよいはずです。しかしあなたは今まで信頼してきた上司を信じる道を選びがちです。
このように、今まで自分が有してきた知識や習慣に沿ったほうを選ぶ傾向は「一貫性」と呼ばれます。われわれは一貫性を保ちたいので、それが最善だからという理由でなく、今までそうであったからという理由で保守的な選択をしがちだということです。 - あなたは投資信託を買おうと思いましたが、あまりにも似たような商品が多いことを知ります。似たような商品であればどれを選んでも同じなはずなのに、あなたはなんとなく購入をためらってしまいます。
行動経済学の分野で「決定麻痺」(角田康夫著『行動ファイナンス―金融市場と投資家心理のパズル』、金融財政事情研究会、2001年)と呼ばれる傾向です。われわれは選択肢が多過ぎると、それが最善だからという理由でなく、単に麻痺してしまって選択を先送りしがちなのです。
このような傾向を完全に防ぐことはできません。しかしこういった傾きがあることを意識しておけば、選択肢の創造を途中であきらめたり、二分法的思考に陥ってしまう可能性を低くできるはずです。まとめておきましょう。
「創造的な選択」をはばむ3つの心理的傾向
- われわれは矛盾にぶつかると、それを減らすように選択肢を絞り込みがちである。
- われわれは、過去の選択と矛盾しないような保守的な選択をしがちである。
- われわれは多くの選択肢を持つと、選択を先送りしがちである。
今日のクリエイティブ・チョイス「まとめ」
「クリエイティブ・チョイス」のためには、矛盾にぶつかったり、多くの選択肢を目の前にしたときに、自分の心の動きにあらがうことも必要です。
著者紹介:堀内浩二(ほりうち・こうじ)
株式会社アーキット代表。「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。工学修士(早稲田大学理工学研究科)。著書に『「リスト化」仕事術』(『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)がある。グロービス経営大学院客員准教授などを兼任。
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