「勝てないゲーム」なら「ルール」を変えよう――脱「囚人のジレンマ」:最強フレームワーカーへの道
「格差社会」と呼ばれるようになって久しい。持てる者はますます儲かり、持たざる者がギリギリの生活を強いられている。それは持たざる者が怠けているからではない。“ゲーム”のルールがそうさせているからだ。
先日、知人の編集者が最近手がけたという本をいただいた。タイトルは『ゲーム理論の思考法』といういささかお堅いものだが、この編集者がつけた帯のキャッチコピーが素晴らしいと思った。
「勝てないゲーム」なら「ルール」を変えよう。
世の中、「格差社会」と呼ばれるようになって久しい。持てる者はますます儲かり、持たざる者がギリギリの生活を強いられている。それは持たざる者が怠けているからではない。“ゲーム”のルールがそうさせているからだ。
資本主義においては、資本を持った者が強い。そして、資本が多ければ多いほど有利に働くという構造のはずである。それでは、私たちはどのような資本を持っているのだろう?
- 不動産資本
- 貯金などの金融資本
- 働ける、という労働資本
普通の人はマイホームなどの不動産を持っていても、ローン返済が重くのしかかっている。そうした意味では不動産資本を純資産とは呼べない。
また、貯金の量は個人差が大きい。「資本」というからには、これを「回転させ」「利益を生み出す」ものでなければならない。現在の金利水準を考えると、1億円以上は金融資産がなければ「金が金を生む」構造には乗っかることができない。ちなみに、1億円以上を貯金する富裕層は全体の1%強だという。つまり、あなたがその100人に1人でなければ、基本的には「労働資本」に頼るしかない。自分自身が「原資」になって、毎月の給与が「利回り」になるというわけだ。
もし、あなたが年収600万円を稼ぐ労働者だとすると、年利5%で計算すると、1億2000万円の資本を回転させていることになる。こうして考えると自分自身ってすごい資産価値なのだな、と関心するだろう。
それでは、この労働資本を支配するゲームのルールはどのようなものだろうか? ゲーム理論的に考えて、労働者と雇用者が目的を持つ主体だとすると、
ゲームの主体 | 目的 |
---|---|
労働者(労働資本の所有者) | なるべく少ない労力を高い金額で買ってもらう |
雇用者(労働資本を買う側) | なるべく安い金額で、より多くの労力を買う |
ということになる。そして、労働者には会社を選ぶ権利が、雇用者には労働者を選ぶ権利があるというのがルールだ。これをゲーム理論のマトリックスにはめてみよう。このゲームでは、お互いの取り得る行為は2種類あるとする。
ゲームの主体 | 取り得る選択肢 |
---|---|
労働者(労働資本の所有者) | 「がんばる=成果が大きい」と「がんばらない=成果が小さい」 |
雇用者(労働資本を買う側) | この労働力を「安く買う」と「高く買う」 |
さらに、これらの選択肢によって両者がどのように利得があるかを数値化してみる。
- 労働者ががんばって成果を出す、雇用者はそれを高く買う場合、労働者の利得は5、雇用者の利得も5としよう(高く雇ったが、成果も大きかった)
- もし、労働者ががんばって成果を出すが、雇用者はそれを安く買う場合、労働者の利得は1、雇用者は7とする
- 反対に労働者ががんばらないときに、雇用者がそれを高く買う場合、労働者の利得は7、雇用者は1とする
- さらに労働者ががんばらないで、雇用者もそれを安く買う場合、労働者も雇用者も利得は3(安く雇えたが、成果も少ない)とする
これを2×2のマトリックスにはめてみると次のような図になる。カッコの中は、選択肢の組み合わせの結果、両者が得られる利得を表す。
雇用者は労働者がもし「がんばる」という選択をすれば、「高く雇う」よりも「安く雇う」のほうが利得が大きいので、「安く雇う」。もし労働者が「がんばらない」を選べば、同様に利得が大きい「安く雇う」を選ぶ。結果的に、このゲームでは、「がんばらない」×「安く雇う」(お互いの利得は3)という組み合わせに落ち着くのだ。
しかし、ここで「あれ?」と思った人は多いだろう。表を見れば明らかだが、お互いに利得が大きい(5.5)「がんばる」×「高く雇う」という組み合わせがあるのに、わざわざお互いに利得の少ない組み合わせを選んでしまっている。これがゲーム理論で言うところの「囚人のジレンマ」と呼ばれる現象だ。
「囚人のジレンマ」は2者間の選択肢の均衡が、必ずしも最適解にならないという現象である。なぜ、こうした事が起きるのかと言えば、お互いの利益だけを最優先にするために起こる矛盾なのだ。つまり、「自分の利益」を追求するあまり、「木を見て森を見ず」状態になってしまい、みすみす得られたはずの利益を逃してしまうということだ。これは大きな機会損失である。
この“機会損失”をなくすには、全体にとっての最適解つまり「会社にとって何がベストか?」を関係者全員のルールとすることである。つまり、このゲームのルールを変更しなければ、いつまでもこの機会損失は続くことになるのだ。
労働者にとっては「雇用者側に立つ」ということだ。これは「雇用者になる」ということではない。「経営者の視点で働く」ということである。そうすることで、自分にとって、ではなく、会社にとってベストな働き方になる。これは大変大きな変化だ。具体的には、自分の任された仕事の成功だけでなく、会社にとってその仕事がどうあるべきかを考えるということ。自分にとって「これが最適解」と思えることも、会社全体のことを考えると、別の解が存在する。自分のプロジェクトを中止してでも、会社としてリソースを集中すべき分野に注力するということもあるだろう。
ちょうど、ホームラン王を狙っている4番打者が、チームが勝つためにあえてバントをするようなものである。
一方、雇用者側も労働者の視点を持たなければならない。労働者が力を発揮できる場を提供し、会社全体にとってどの仕事がどういう役割を担っているのか、方向性を指し示す必要がある。当然ながら、会社の成功が労働者の成功に(精神的にも、経済的にも)つながっているという実感を労働者に持ってもらう努力を怠らないことだ。
「つまり会社にとって何がベストか?」ということが、最終的には関係者全員にとっての利得を最大化するはず。ゲームのルールを「自分のために」から「全体のために」に変えるだけで、「囚人のジレンマ」から逃れることができる。あなたが本気で勝ちたいなら、そして経済的にも成功したいなら、このルールの変更はなるべく早い方がいい。勝てないゲームに我慢して耐えしのぶのではなく、ルールを変えよう。今日にでも、すぐ。
著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)がある。
連絡先: nagata@showcase-tv.com
Webサイト: www.showcase-tv.com
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