独自性を武器に2007年も成長を目指す──ウィルコム喜久川社長に聞くInterview(1/2 ページ)

» 2007年01月05日 14時15分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 携帯電話業界では番号ポータビリティ(MNP)の競争が進行中だが、その一方で、着実に成長しているのがPHSキャリアのウィルコムだ。同社はマイクロセル型ネットワークを持つ強みをいかし、音声定額をはじめとする独自のサービスを展開してきた。

 12月26日に掲載した前編に引き続き、ウィルコムである喜久川政樹氏のインタビューをお届けする。

ウィルコムならではのスマートフォン

 2006年を振り返ると、日本市場でもスマートフォンが注目された年であった。その最右翼がウィルコムの「W-ZERO3」と「W-ZERO3 [es]」であり、前者は発売後しばらく品薄になるほどの人気を見せた。一方で、携帯電話業界でもドコモ、ソフトバンクモバイルが相次いでスマートフォンを投入。欧米のホワイトカラーに人気の「BlackBerry」や、W-ZERO3と同じくWindows Mobileを搭載するHTCの「hTc Z」「X01HT」が発売されている。

 ウィルコムにとってW-ZERO3は貴重な戦力であるが、携帯電話キャリアのスマートフォン導入の動きは、同社にとって影響を与えないのだろうか。

 「まずスマートフォン市場を俯瞰しますと、コンシューマーの中でもプロフェッショナルな(スキルを持つ)方々と、中高年のシステム手帳世代に受け入れられているという感触を持っています。あとは法人需要ですね。業務利用はもちろん、さまざまな用途で使えるという点で、汎用OSが搭載されているメリットは大きいですから」(喜久川氏)

 これらスマートフォン市場の広がりの中で、ウィルコムが強みを持つのは、「独自のコンテンツサービスを持たないところ」(喜久川氏)だという。

 「ドコモのiモードを筆頭に、携帯電話キャリアはクローズドインターネットを(ビジネスとして)持たれているわけですよね。我々は、もともとフルブラウザ中心の考えを持っていて、その延長線上に汎用OS(によるスマートフォン)もある。オープンな形で作り上げようとしているのです。ですから、スマートフォンの上で動くアプリケーションやサービスを、何のてらいもなく推し進められるのはウィルコムだけだと考えています」(喜久川氏)

 実際、携帯電話キャリアが発売するスマートフォンのいくつかは、ユーザーが自由にアプリケーションを追加できないように制限されている。また、パケット料金定額制についても、ドコモは適用外で、ソフトバンクモバイルは上限額が割高だ。喜久川氏が指摘するように、キャリア独自のコンテンツサービスやビジネスモデルへの“配慮”が垣間見える。

 「我々は使いやすいネットワーク、汎用性のあるOSとWeb環境を整えていく。そうすることで様々なプレーヤーとパートナーシップが結べます。例えば、いま(FMラジオ局の)J-WAVEとWebラジオをそのままW-ZERO3で視聴できるサービスを行っていますが、これも『パソコンで動くなら、(W-ZERO3でも)できるよね』という発想なんです。いまPCの業界で動いているような放送と通信の融合も、マイクロセルのネットワークを持つウィルコムならば実現できちゃうんですよ」(喜久川氏)

データカード市場の今後と、ウィルコムの高速化

 携帯電話業界からは距離を置き、独自の展開で成長を続けるウィルコムだが、昨年の誤算はモバイルノートPC向けのデータ通信カード需要が振るわなかったことだ。その理由として喜久川氏は、個人情報保護法施行後、企業がノートPCの持ち出し運用に厳しくなったことを挙げたが、データカード市場の見通しは今後も暗いままなのだろうか。

 「個人情報保護法に企業がセンシティブになりすぎたと感じていまして、私としてはもう一度(ノートPCの活用に)揺り戻しが起こると考えています。しかし、その場合は当然ながら、セキュリティが重要なテーマにはなると思いますが」(喜久川氏)

 セキュリティを考えると、今後のノートPCの運用は、おのずと端末側にデータを極力置かないサーバ利用型に移行していくだろう。すでに多くの企業がメールの利用をIMAP4に限定するなどサーバシフトが進んでいるが、そうなると“快適な利用”には今まで以上の通信速度が必要になる。

 「データカードの高速化については、まず年度内にW-OAMに64QAMを導入します。それ用のデータカードも発売する予定です。これで今のネットワークで約500Kbpsまで速度を上げることができます。

 さらに基地局のバックボーン回線を光ファイバーに置き換えていきます。(W-OAMの64QAMでは)バックボーンのISDN回線がボトルネックになるのですが、これを光ファイバー化すれば約800Kbpsまでの速度向上が見込めます」(喜久川氏)

 1つ補足をすると、マイクロセルのネットワーク構成を持つウィルコムの場合、実効速度が理論値からそれほど落ちないというメリットがある。携帯電話の世界でも都市部を中心にマイクロセル的な基地局構成になってきているが、契約者数による収容人数の違いも含めて、実効速度でのウィルコムの優位性は確かにある。

 「もう1つ、スループットといった数値に表れる部分とは別に、接続にかかる遅延を減少する取り組みを行います。この接続遅延は、実際の利用シーンで体感速度を下げる要因です。サクサクと(セッションが)進まないとお客様のストレスになってしまうということが、我々のマーケティングリサーチの結果からもわかっています。ですから、通信速度の向上とは別に、ネットワーク全体で遅延を減らす取り組みをしていきます」(喜久川氏)

 ここまでがウィルコムにおける「現行世代での高速化の取り組み」(喜久川氏)だ。W-OAMの64QAM対応製品は今年度末、すなわち目前の春商戦までに投入される模様であり、それらは基地局の光ファイバー化が進んだ地域から約800Kbpsの通信速度に対応していく。

 その上でウィルコムは、次の時代を見越した高速化にも着手している。

 「現行世代だと通信速度は1Mbpsくらいまでというのが見えてきているので、その先は今までの(PHSの)コンセプトは継承しながら、新しい世代の技術でPHSを開発しなければならない。すでに次世代PHSの開発を進めていますが、実験段階ではかなりの速度が出ています。技術開発のメドはかなり立ってきているので、あとは免許と投入タイミングの問題ですね」(喜久川氏)

 このようにウィルコムは高速化を着々と進めるが、一方で喜久川氏は「音声とデータの両方で“完全定額”の看板を下ろすつもりはない」と強調する。

 「お客様のニーズは、“安定した通信スピードのインフラを、安く使いたい”という部分にあります。(完全定額ではないなど利用料が)高かったら誰も怖くて使えませんから」(喜久川氏)

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