最初はまったく売れなかった明太子、どうやって福岡から全国区に?日本初の明太子メーカー・ふくや社長に聞く(2/5 ページ)

» 2016年04月18日 08時05分 公開
[伏見学ITmedia]

 買い物に来た博多の人たちは、明太子を見て度肝を抜かれた。唐辛子で真っ赤に染まるたらこを今まで見たことがなかったからだ。しかも生の状態である。何人かの客が買って帰ったものの、その翌日、「辛すぎる!」とクレームが飛んできた。辛子文化の韓国と違って、当時の博多の人たちはせいぜい薬味程度の辛さが一般的だった。そのため、明太子はとんでもなく辛くて、食べられるものではなかった。結局、多くの客は明太子を水で洗って唐辛子を落とし、それを焼いて食べたのだそうだ。

 「今でもふくやでは、1月10日は初めて明太子を販売した日、1月11日は初めてお客さんからクレームがついた日と言っています」と正孝氏は苦笑する。

試行錯誤に「10年」

 ここからが俊夫氏のすごいところだった。客が食べやすいよう、すぐさま味を変えようと決めたのである。「当時はお客さんに否定されても、逆に認めさせてやろうとこだわり続ける職人気質の商売人が多かったのですが、父はお客さんに合せることを良しとしたのです」と正孝氏は述べる。

辛味は通常の13.5倍という「辛皇 ホットエンペラー」(出典:同社サイト) 辛味は通常の13.5倍という「辛皇 ホットエンペラー」(出典:同社サイト)

 俊夫氏は地域のさまざまなボランティア活動に参加しており、新しい味付けの明太子を作るたびにそこへ持って行き、皆に食べてもらっていた。そこでのフィードバックを基に作った明太子を店に並べ、今度は客に意見をもらい、酒やはちみつ、角砂糖などの調味料を混ぜたり、変えたりしては改良を加えた。

 辛さを抑えるだけでなく、うま味を出すために、かつおぶしや昆布で取った出汁を入れたりと、試行錯誤を繰り返した。結果的に現在のような明太子の味付けになるまで、実に10年間の歳月を要したのである。

 なお、ふくやでは、この創業当時の“辛すぎる”明太子を再現した新商品「辛皇 ホットエンペラー」を2012年に発売した。7種類のスパイスをブレンドして通常の明太子の13.5倍もの辛味に仕上げているが、その刺激的な辛さを味わおうと注文が相次ぎ、販売数は2万個を突破したという。

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