災害取材を行うマスコミが、現地で非常識な行動をとる理由スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2016年04月19日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

非常識極まりない行動

関西テレビのクルーは、「災害現場に早く……」という焦りがあったのか(写真はイメージです)

 デイリースポーツの取材に応じた関西テレビ広報によれば、取材クルーは宿泊先の熊本市内を朝出発し、被害が大きかった益城町に向かう途中だった。中継や取材素材送信の作業などで時間が切迫していたことで、割り込みを行ったという。

 この日は朝から各局が益城町から中継を行っている。「後発」の関テレクルーらの尻に火がついていたのは容易に想像できる。とにかく早く現地に急行し、倒壊した家屋など「地震の爪痕」を見つけなくてはいけない。インタビューに応じる被災者も必要だ。レポート原稿やカメラ割りなど中継の段取りも考えれば、チンタラしている場合ではない――。

 つまり、彼らが割り込みという非常識な行動をとった背景には、「被災者の論理」より「マスコミの論理」を優先させてしまうからなのだ。この論理とは一言で言えば、とにかく「分かりやすく派手な被害」を伝えることこそが正義だという考え方である。

 被害を免れた建物より、倒壊した家屋。安堵の笑顔より、不安に怯える表情。命からがら逃げた人にマイクを突きつけ、「どうですか? 怖かったでしょう?」とやる。こういうことが「優先すべき仕事」になってしまっているので、ガソリンの給油待ちをしている被災者の姿が見えないのだ。

 ただ、マスコミのみなさんをかばうわけではないが、彼らがこのような「分かりやすく派手な被害」に固執してしまうのは、「性」(さが)というか、「絶対に完治しない病」のようなものだと思っている。

 もうずいぶん前になるが、まだ記者をやっていたとき、北海道の有珠山(うすざん)が噴火をして現地で取材をしたことがある。噴煙は地上3000メートルまでのぼり、国道も寸断。近隣住民は避難を余儀なくされるという大きな災害だった。

 道内はもちろん、日本中でさまざまなイベントが「自粛」された。「日曜洋画劇場」で放映されるはずだった火山を舞台にしたパニック映画『ダンテズ・ピーク』も他の映画に差し替えになって、連日のように噴火の様子や、避難所で疲弊した被災者の様子が報道された。

 ただ、これは現地にいた人間からすると、かなり違和感があった。噴火2日前に近隣住民ら約1万人を避難させたおかげで、人的被害はゼロ。洞爺湖温泉(とうやこおんせん)という「観光の街」ということもあり、中には「噴火に負けるか!」と声を掛け合って、元気な被災者も多くいたからだ。

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