JR九州上場から、鉄道の「副業」が強い理由を考える杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2016年07月08日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

紀州鉄道の実態は不動産会社

 紀州鉄道が安泰な理由は、会社の実態がホテル・リゾート業だからである。同社直営のリゾートホテルは軽井沢、那須塩原、箱根、熱海など11カ所。シティホテルは名古屋、大阪、博多。また、別荘を共有する会員制リゾート事業、軽井沢の別荘分譲や旅行代理店、個人・企業・団体向け会員制リゾートビジネスなどを手掛けている。鉄道事業の赤字は、これらのホテルリゾート事業で十分に埋め合わせできる。

 4000万円といえば大金だ。看過できない。しかし、紀州鉄道という会社名を続けるからには、鉄道は保持しておきたいのだろう。岡山県の下津井電鉄、北海道の十勝鉄道など、既にバス会社になっても鉄道を名乗る会社はある。会社名の鉄道の文字は伝統的なブランドであり、信用を高める手段だった。その名残だ。

 紀州鉄道の経緯は少々複雑である。御坊臨港鉄道は経営不振で破たん寸前だった。そこで、1972年に東京の磐梯急行電鉄不動産が買収し、翌年に紀州鉄道に改名した。買収の理由は「鉄道会社として不動産事業の信用を得るため」だった。磐梯急行電鉄不動産は、磐梯急行電鉄の経営陣が名前を継承しただけの、鉄道を持たない不動産会社だった。磐梯急行電鉄そのものは1969年に廃止となっていた。

 不動産事業を進めるにあたって、鉄道の看板は効果的だ。それは阪急不動産や東急不動産のように、鉄道と一体的に土地の開発、分譲に成功した事例が多かったからだ。例えば、あなたが住宅やオフィスビル、土地を購入するとして、私が経営する「杉山不動産」と「東急不動産」のどちらが信用できるだろう。私が買う側なら東急不動産にするし、売る側になっても、自分で売るより東急不動産に入ってもらったほうが売りやすいと考える。

 紀州鉄道は、たとえ3キロメートルに満たない鉄道路線だとしても、正々堂々と鉄道会社のブランドを使える。そしてリゾートホテル、別荘などの分野へと進出した。現在は不動産仲介・リゾート開発を営む鶴屋産業の傘下でリゾートビジネス分野を担っている。

 しかし、紀州鉄道のビジネスモデルは東急不動産や阪急不動産など、私鉄系不動産会社とは違う。鉄道沿線の開発が主軸ではない。純然たる不動産リゾート事業となっている。

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