JR九州上場から、鉄道の「副業」が強い理由を考える杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)

» 2016年07月08日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

小林一三モデルが封じられたJRグループ

 大手私鉄が小林一三モデルで利益を上げていく一方で、国鉄の赤字はかさみ、国家的大問題となった。国鉄の赤字の原因はいくつかあって、戦後の引き揚げ者を大量に受け入れたこと、その退職者の年金がふくれ上がったこと、赤字ローカル線の存在と、赤字になると分かっていても政治路線を引き受けざるを得なかったことなどがある。

 そしてもう1つ、国鉄は公共事業体として、鉄道事業と関連業務以外の副業が禁じられていた。国鉄スワローズというプロ野球球団さえも国鉄経営ではなかった。財団法人交通協力会、駅売店などを運営する鉄道弘済会、日本通運、日本交通公社などが協同して「株式会社国鉄球団」を設立していた。国鉄の副業制限は、国鉄末期には少し解禁されたけれども、小林一三モデルは使えなかった。もし、副業が発足当初から認められていたら、沿線の優良不動産を運用して大きな利益を上げただろう。なにしろ人材は余っていたのだ。

 国鉄を引き継いだJR各社は、JR会社法によって中小企業への圧迫になるような事業は禁じられていたが、副業は解禁された。ところが、副業が解禁されたところで、小林一三モデルを実現するための土地はなかった。遊休地の多くは国鉄再建法によって国鉄再建事業団に取り上げられ、売却され、国鉄の赤字解消に回された。

 例えば、現在の東京・汐留である。鉄道発祥の地であり、広大な貨物駅があった。現在は民間のビル群が建ち並ぶ。新宿高島屋タイムズスクエアも新宿貨物駅。その名残として、地下は上越新幹線の新宿駅予定地として温存されているという。私が知る中で、小林一三モデルと言えそうな案件はJR東日本のガーラ湯沢スキー場だ。新幹線が乗り入れる駅と一体となってスキー場を開発した。

 JRグループは、大手私鉄より不利な条件から副業に着手した。しかし、それだけに戦略的で研究熱心だったと言える。わずかに残された遊休地で実績を積み、沿線外の不動産物件へ積極的に進出した。例えば、今年4月15日にオープンした「アトレ恵比寿西館」は、多くのメディアで駅ビルと紹介されていた。しかしJR東日本の土地ではなく、クレディセゾンの子会社アトリウムが土地・建物を保有している。アトレとしては初の他社物件、ビル1棟を借り受けて開業した。

アトレ恵比寿西館(出典:flickr) アトレ恵比寿西館(出典:flickr

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