「プロフェッショナルな仕事」とは何か「売れる商品」の原動力(5/5 ページ)

» 2016年08月24日 05時30分 公開
[井尻雄久ITmedia]
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ブランドは「心」で作るもの

 私の友人で、勤めていた大手企業を辞め、世界中をバックパッカーで旅してきた男がいます。帰国した彼と話をしていて、どんな土地が良い思い出として残ったかと聞くと、仮に言葉が通じなくても一生懸命にコミュニケーションを図ろうとする人たちと出会えた場所だったというのです。逆に、良い印象を持てなかった土地というのは、日本人だと思って「シャチョウ」「シャチョウ」というような怪しげな日本語で、巧みに取り入って財布を開けさせようとするような人々がいたところ。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京の街も日本という国全体も、どのように世界の人たちを迎えるのかという議論が盛んです。公共交通機関に外国語のアナウンスを入れるとか、英語の看板をつけるとかいったハード面の整備も確かに必要でしょう。しかし、なによりも求められているのは、受け入れる日本の人々の“心”の問題だろうと私は思います。

 例えば都会の大きなホテルやデパートは外国人を歓迎しながら、同じ東京であってもローカルの飲食店や旅館になると「外国人お断り」みたいな対応をするところが珍しくありません。言葉が通じないから、互いにトラブルになることは避けたいというのが大抵の理由です。

 けれども、相手も旅をするという目的をもって異国である日本に来ているのです。言葉がうまく通じなくても、それでも意思の疎通を図ろうとし、相手を受け容れてもてなそうとする心があれば、結果的には旅の良い思い出になり、日本という国を愛するきっかけになるでしょう。こちらも、新しい発見や出会いを経験できます。

 「言葉が通じないからお断り」というのは、実は言葉うんぬんは口実であって、効率の悪い面倒なことは避けたい、異質な人々は受け容れたくない、という硬直した“心”の表出にほかならないのではないでしょうか。日本あるいは東京というブランド作りで「おもてなし」というのなら、何をするかという形の問題以前に、私たち自身の“心”の転換を図っていかなければなりません。

 ブランドというものは、しょせんは“心”で作っていくものなのです。

(終わり)

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