「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

えっ、「介護」って造語なの? 市場をつくった“生みの親”に聞く水曜インタビュー劇場(アイデア公演)(2/6 ページ)

» 2016年09月07日 07時20分 公開
[土肥義則ITmedia]

介護おむつカバーを開発するきっかけ

土肥: フットマークはこれまで大きな市場を2つもつくられました。1つは「水泳帽子」、もう1つは「介護おむつカバー」。これまでになかったモノをつくって、現在では多くの人が利用されているわけですが、そもそもどういったきっかけで介護おむつカバーをつくろうと思ったのでしょうか?

磯部: 当社は1946年に創業したわけですが、当時の主力商品は赤ちゃん用のおむつカバーでした。

土肥: 赤ちゃん用のおむつカバーをつくっているので、「じゃあ、お年寄り用のおむつカバーでもつくろうか」となったわけですか?

磯部: いえ、そういうわけではありません。介護おむつカバーは1970年に開発しましたが、いまと違って当時は近所付き合いが密でした。例えば、醤油が切れていたら近所の家に行って「ちょっと貸してくれませんか?」と言っていました。気軽にそうした雰囲気が言える時代だったので、お互い家族のことをよく知っていたんですよね。親はこんな仕事をしていて、子どもはこんな学校に通っていて、といった感じで。

 ある日、近所に住んでいるお嫁さんがやって来ました。「磯部さんの会社は、赤ちゃん用のおむつカバーをつくっているんですよね。実はウチのおじいちゃん(義父)がおもらしをするようになったので、大きめのおむつカバーをつくっていただけないでしょうか?」といった依頼がありました。

 当時の家族構成は、3世代が一緒に住んでいるケースが多かったんですよね。そのお嫁さんは義父がおもらしをするようになったので、とても困っていました。しかし「大きめのおむつカバー」と言われても、私たちは意味がよく分かりませんでした。当時は見たことも触ったこともなかったので。ただ、赤ちゃん用のおむつカバーをつくっていたので、生地を縫うのは得意。言われた通りに、つくってみることに。型紙を大きくしてつくってみたところ、そのお嫁さんに「ありがとうございます!」と言っていただけました。

土肥: 近所に住んでいる人からの要望があって、介護おむつカバーが誕生したのですか?

磯部: はい。当時、赤ちゃん用のおむつカバーをつくっている会社はたくさんありました。でも、そのお嫁さんはウチの会社に声をかけてくれました。なぜか。先ほど申し上げた通り、その家族とは「醤油を貸していただけませんか?」と言える関係にあったからではないでしょうか? 何でも言える関係があったからこそ、この商品は誕生しました。いまの時代だったら、難しいでしょうね。ネットで「おむつをつくっている会社はどこか?」を検索して、上位にヒットした会社がつくっていたかもしれません。

1970年に発売した「介護おむつカバー」(当時は「病人用おむつカバー」)

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