渡辺: 業務を精査したところ、非常にムダが多いことが分かってきました。警備、清掃、発券、広告などの業者があるのですが、その組織が縦割りなんですよね。例えば、警備員の足元にゴミがころがっていたら、その人は何をすると思いますか?
土肥: ゴミをひろいますよね。
渡辺: ひろわないんですよ。組織が縦割りになっているので「自分は警備をする人、だからゴミはひろいません」といったスタンスなんですよね。
土肥: えっ、ということは……。
渡辺: 売り場の人は売るだけ、案内する人は案内するだけ、清掃する人は清掃するだけ……といった感じ。清掃する人も清掃時間が決まっていて、ゴミがたくさん散らかっていても、その時間になるまで清掃しない。もちろんすべての人がそのような対応をしているわけではありませんが、非効率に業務を行っている部分がたくさんありました。
あと、スタッフは笑わないですし、お客さんに声もかけない。どうしてかなあと思って調べたところ、「笑ってはいけません」「お客さんに声をかけてはいけません」といったルールがあったんですよ。
土肥: ちょ、ちょっと信じられません。遊園地などでは「笑顔を絶やさずに」「お客さんに声をかけましょう」といった感じで、コミュニケーションをとても大切にしているのに、公営レース場では真逆のことをやっていたということですか? なぜ、そんなルールがあるのでしょうか?
渡辺: 分かりません。想像の話になりますが、レース場には勝った人もいれば負けた人もいる。負けて機嫌が悪いときに、スタッフが笑顔で声をかければ怒られるかもしれない。だから、「笑顔はダメ」「声をかけてもダメ」といったルールができたのかもしれません。
あと、お客さんを監視していたのかもしれません。レース場でスリをしている人はいないか、窓口でお金を奪う人はいないか、ケンカをする人はいないか、といった感じで見張っていたのかもしれません。いずれにせよ、「自分たちの仕事はサービス業である」といった認識をもっている人がほとんどいませんでした。
もちろん、笑わない、声をかけない人が悪いといった話をしているわけではありません。スタッフは上から言われたことをそのまま忠実にやっていただけ。自分の仕事はきちんとやっていたんですよね。ただ、決められた以外のことはやらなかった……いや、やってはいけなかったんですよ。
土肥: いまの時代、この日本で、そのようなことが平然と行われていたなんて、ちょっと信じられないですね。不思議な労働環境がはびこっていた中で、どのようにしてスタッフのマインドを変えていったのでしょうか?
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