きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2017年05月12日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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買い切りでもカプセルトイはダメ?

 しかし、新十津川駅入場券の場合は、170円、1000枚のきっぷを新十津川町の有志が17万円で買い取った。この時点で、JR北海道としては完売状態だ。売った先で不正があろうと、集計に苦労しようと関係ない。簡易委託販売の契約は、日々の販売数の報告義務はない。売り上げに対する手数料の請求も不要。納品数20枚につき1枚が追加提供され、その1枚を販売した分が販売店の取り分になる。今回は1000枚を発注すると1050枚が納品される。完売すれば50枚ぶん8500円の利益だ。ただし、不注意で汚したり、折れたり、日付印を裏表で押し間違えるなどした場合は交換できず、その50枚の範囲内で納めないと赤字になる。つまり、JR北海道側の追加負担はない。

 では、なぜJR北海道は「カプセルトイはダメ、番号順の販売」を求めたか。これは、新十津川町とJR北海道との契約が「売買」ではなく「簡易委託販売」だからだ。

 売買契約であれば、JR北海道が1000枚のきっぷを売り、新十津川町が買い取った段階で契約終了。新十津川町が転売しようと無料配布しようと、JR北海道としては関知しない。しかし、簡易委託契約は、JR北海道のきっぷの販売を新十津川町に委託する契約だ。販売方法は委託側の手順を守る必要があり、受託側が変えてはいけない。委託側の説明不足は問題だけれど、説明不足だからといってルールを変更して良しとはならない。

 ならば売買契約にできたか、というと、それはまずない。きっぷは購入者に鉄道のサービスを提供する契約書、有価証券と考えられている。使用開始後のきっぷの譲渡は旅客営業規則で禁じられているし、使用開始前のきっぷについても、明らかに転売目的の大量の売買契約には応じられない。そんなことをしたらJR北海道が印刷下請け業者になってしまう。

 JR北海道がきっぷ販売の秩序を守りたい理由はもうひとつある。カプセルトイ中止を申し入れる直前の4月12日に「JR北海道わがまちご当地入場券」の取り組みを発表した。1駅につき1市町村に限定した、特別なデザインの記念入場券を販売する企画だ。原則としてJR北海道の駅窓口で販売するけれども、無人駅などを指定した場合は駅付近の施設や商店で委託販売も実施する。

 こうした状況の中で、きっぷ販売の秩序を維持するためにも、カプセルトイによる販売などを勝手に実施されては困る。きっぷの委託販売に当たっては、JR北海道のルールを順守してもらう。「番号順に売る」は、JR北海道にとって譲れない一線だ。

photo 新十津川駅(出典:Wikipedia

 新十津川駅の入場券に関しては、JR北海道の要求通りカプセルトイをやめ、対面販売に切り替えた。不承不承かもしれないけれど、この決着で良かったと私は思う。「ガチャガチャ」方式は確かに面白い。しかし、入場券を発売する目的は何か。町を訪れる人々に「記念になる品を提供したい」「町おこしに役立てたい」だとするならば、それは自動販売機ではなく、対面販売がベストな選択ではないか。老夫婦だけでは不安なら、せめて1日1便の折り返し時間だけでも応援を出してあげよう。人件費はかかるけれど、それを上回るビジネスチャンスを得られるかもしれない。

 入場券と代金をやりとりする中で「買いに来てくれてありがとう。どこから来たの」「このあたりにおすすめの食事処はないか」「駅のほかに見どころはないか」などと会話が生まれる。そこから観光が始まる。駅を訪れた人に町を紹介するチャンスだ。新十津川町がしたたかに、そしてたくましく、町おこしに成功することを期待したい。

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