きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2017年05月12日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

番号順に売れないから

 JR北海道が中止を求めた理由は「きっぷを番号順に売れないから」だ。ゲームアプリでは「ガチャ」方式が射幸心を煽るとして問題になったけれど、そうではない。JR北海道としては「きっぷは番号順に売る」という決まりだから。社内規定にも定められており、契約時に口頭で説明したという。

 しかし、町側は「説明を受けていない」と困惑する。言った、言わないの話になっている。ビジネスでもよくあることだが、この場合は立場の強弱で決着する。町としては訪れた人に販売したい。JR北海道としては、本来無用のきっぷだから売らなくても良い。結局、町側が折れて、対面販売に戻した。さぞ悔しかったことだろう。同情を禁じ得ない。

 関係者によると、カプセルトイ方式が報道された日の午前中にJR北海道の担当者が来て、「やめてほしい」と言われたという。理由を聞くと、旅客営業規則にあるとのこと。JR北海道は旅客営業規則をネットで公開している。JR旅客各社とほぼ同じだ。しかし、どこを見ても「番号順に売る」という記述はない。JR北海道の「社内規定にある」「契約時に説明したはずだ」という言葉は、「カプセルトイで販売」という記事を書いた記者がJR北海道に問い合わせて聞き出したものだという。記者も悔しかっただろう。楽しいこと、地域のためになることだと信じて書いた記事が、取りやめのきっかけになってしまったからだ。

 しかし、JR北海道の困惑も分かる。まさかきっぷをカプセルトイで販売するとは思ってもみなかっただろう。それだけ新十津川町有志のアイデアが奇抜だったわけだ。「社内規定で番号順に売らなければならない」は、おそらくその通り。番号順に売らないと、内部でキリ番を抜き取って転売する輩も現れる。過去にどこかの鉄道会社で、そんな事件もあったように記憶している。

 「きっぷを番号順に売る」は、きっぷの販売では当たり前のことだ。当たり前すぎるから外部との契約書に明文化しなかった。結果として「言った」「言わない」の話になる。さっそくひとつの教訓が得られた。社内の常識を社外の人間が知っているとは限らない。契約書は細かく明文化すべし、である。「社内規定は見せられない」ならば、なおのこと、見せられる範囲で契約書なり手引書に記す必要がある。

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