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» 2017年06月23日 07時00分 公開

「只見線」「南阿蘇鉄道」の復旧が遅れた“原因”は何か杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

[杉山淳一,ITmedia]

黒字の鉄道会社は国の支援を得られない

 なぜ道路はすぐ復旧に着手できたのに、鉄道はできなかったか。道路は自治体が保有しており、国の復旧支援が得られた。しかし、鉄道はJR東日本という民間企業が保有している。JR東日本の経営構造は、首都圏の鉄道網と新幹線などの黒字によって、赤字ローカル線を支える形だ。只見線は赤字だけれど、JR東日本としては黒字。国としては、黒字の民間企業に対して公的資金による支援はできない。

 災害という非常事態だから、この建前を崩してもいいではないか、と思う。しかし、政策は特例を前例にしてしまうものだ。今後、黒字の企業に公的資金をつぎ込むようになる。それは利権や不正の温床になるかもしれない。国の倫理観として、この線は絶対に守るべき、という考え方は理解できる。

 一方、JR東日本は株式上場会社だ。民間から出資を受け配当する立場として、利益を生まない事業は継続できない。赤字になると分かっている路線に投資して復旧させる道理はない。これは東日本大震災における山田線、気仙沼線、大船渡線被災区間と同じ状況だ。

 東日本大震災のとき、当時のJR東日本社長は「公共交通機関の責任として復旧させる」とカッコいい発言をしたけれど、その後は言及しなかった。社長交代後、JR東日本は復旧方針を撤回し、BRT(バス高速輸送システム)を推進した。公共交通機関の責任より、投資家に利益を保証する責任の方が重かった。これは当然の選択で、JR東日本には「前社長がうっかり口をすべらせた」以上の責任はない。

 これはJR東日本に限ったことではない。地方鉄道も同様だ。例えば、茨城県のひたちなか海浜鉄道は、茨城交通から湊線を分社化して設立された。茨城交通に対して支援するより、明確に湊線を支援する枠組みが必要だったからだ。茨城交通湊線のままではダメだった。長野県の上田電鉄も同じ。鉄道部門の公的支援を明確化するため、上田交通から分社化した。島根県の一畑電鉄も同じ経緯で鉄道部門を一畑電車に分社化している。

 公的支援を受けて鉄道路線を維持したいなら、JR東日本も赤字路線を分社化すればいい。親会社が黒字ではダメだというなら、資本関係も解消すべきだ。つまり事業撤退である。鉄道を残すために事業を撤退する。それも公共交通機関の責任といえる。その考え方で、JR東日本は岩手県の山田線の海岸区間を手放し、三陸鉄道に移管させる枠組みに。近畿日本鉄道の赤字路線の経営移管もこの手法に似ている。

 只見線について福島県とJR東日本が交わした基本合意書を見ると、JR東日本は福島県に被災区間の鉄道施設を譲渡する。JR東日本は車両を用意し、列車の運行と営業を行う。つまり上下分離となった。JR東日本は福島県に対して、線路施設使用料を支払う。ただし、その支払いによって列車の運行が維持できない場合は使用料を減免される。

 また、線路施設の維持管理は、福島県からJR東日本に対して「維持管理に関わる業務の委託要請があった場合は、業務内容等について別途協議」となった。福島県としては線路施設を得たとしても、維持管理の経験がない。JR東日本など専門事業者に委託する必要があり、これも運行支援策の1つになるだろう。こうして、民間事業のJR東日本は、なるべく負担が少ない形で鉄道の復活に応じた。

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