ソルティライチにより、キリンビバレッジの中でも主力ブランドに成長した世界のKitchenからシリーズ。ソルティライチの人気を軸に据えつつ、スイーツ系の「とろけるミルク杏仁」、レモングラスと緑茶を組み合わせた「冴えるハーブと緑茶」、ホットワインにも似た味わいの「甘く香り立つスパイスの薫るホット葡萄」と、毎年さまざまな新商品を提案している。
ブランド10周年という節目、6月に発売したのが「ほろにがピール漬け蜂蜜レモン」。この商品には、どのような思いが込められているのだろうか。
企画するにあたって、チームでブランドの未来を考えたのだという。今後10年、どういう風にやっていこうか。今ブランドの価値として大事にしていることは、10年後にも同じように価値となるのか――答えはイエスだった。
「10年前に立ち上げた『手作り』というコンセプトは廃れていません。むしろ、クラフトブームもあって加熱している。ITが進化して暮らしがすごいスピードで変わっていき、わくわくもするけれど不安も生まれている。その中で、世界のKitchenからの『素材のよさ』『手間暇かける』というメッセージは、究極にアナログなものとして支持されるのではないでしょうか」
今でもチームのメンバーは、新商品開発の際は海外の家庭に取材に行っているという。図子さんは「初めての取材だと、だいたいみんなおいしくて泣くんですよ」と笑う。
6月発売の「蜂蜜レモン」は、ブランドの原点に立ち戻ったような商品だ。07年の「ピール漬けハチミツレモン」は、「南イタリア・アマルフィのレモンの皮がおいしい」という気付きから生まれたのだという。
「10年前の気付きは、10年たっても意味のある気付き。さらに、10年分の知見を込めて、今だからできるよりいいものを作りたいと考えました。チームのキッチンで実験を始め、『レモンをどう調理すれば香りが生かせるのか?』とさまざまな製法を試しました」
生クリーム、オイル、アルコール……香りを守るための製法を何十通りも試した結果、2種類のレモンの皮を刻み、レモングラスとともに蜂蜜に漬けたものがベストのバランスだとたどりついた。次に、キッチンでの「手作り」を、工場での「大量生産」に落とし込む過程がある。キッチンで成功しても、工場から「後の生産に響く」などと断られることも。
「素材の調達、安心、製造面、生産量の確保を考えなければいけない」と図子さんは苦労を語る。蜂蜜レモンで大きな壁となったのが、“100%ノーワックスへのこだわり”だ。
「多くのレモンには、光沢材や防カビ剤の役割を果たすワックスがかけられています。でも、皮が主役のこの商品は、どうしてもノーワックスでやりたかった。国産だと量が足りず、海外だと100%と言い切るのはすごく難しく、『もう商品が出せないかもしれない』と思ったくらいです」
さまざまな農園に断られた続けたが、最後にスペインの農園・カノバス家に巡り会った。図子さんも現地に飛び、「これはいいものができる」と確信を持ったという。ノーワックスのレモンは輸送中に傷んでしまうため、スペインで皮を剥き、冷凍で直送するラインを作った。
「いろいろな人の協力がなければ達成できなかった。10周年のタイミングとして自信をもってやり切れました。『手作りを超えた』と思ったのは、初めての体験かもしれません」
10周年を迎え、原点に立ち戻った世界のKitchenからシリーズ。10年後に向けてどのようなビジョンを持っているのだろうか。図子さんは「変える必要性を感じている部分もある」と語る。飲料業界全体の課題として挙げたのが「大衆受けする商品が棚に残ること」。ブランドを応援するファンから「あの商品が好きだったけど、買えなくなってしまった」という声を聞くと、大衆受けする商品しか残らない仕組みを歯がゆく思うのだそうだ。
「何割かのお客さまが欲しいと思ったら、買い続けられるような仕組みを作れないだろうか――と思いますが、なかなか難しい。今のスキームは、1回にたくさん売れなければいけません。売り方や届け方をもっと考えなければいけない」
その一方で、10年後も変わらないと断言できる部分もある。
「『手作り』というアナログ的な製法にこだわりつつも、メーカーだから工場で大量生産している。そこにはやはり矛盾がある。でもブレずにアナログを追求したいです。この業界は効率、生産性、コストパフォーマンスを考えがちですが、身近にいる誰かを思いながら作るということも大事。『自家製』を進化させたいですね」
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