テレビに進出したユーチューバーはなぜ失敗したのか世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2018年02月01日 07時40分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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まだまだ“融合”は難しい

 ユーチューバーの話に戻す。今回のCNNの失敗から学べることは、大物のユーチューバーと、さまざまな制限があるテレビ局が一緒になって新しいコンテンツを生み出すことは難しいということだ。

 基本的にユーチューバーの動画は時間の制約があるテレビで流すような内容ではない。結果、CNNはうまく扱えなかったということになる。一方のユーチューバー側からしてみれば、CNNという媒体を使うメリットはあまりなかったのではないだろうか。

 それはリーチする視聴者数にも如実に出ている。例えばCNNの看板番組である『シチュエーション・ルーム・ウィズ・ウルフ・ブリッツァー』というベテランジャーナリストがアンカーを務める2時間の報道番組は、17年に史上最高の年間視聴率をマークしている。この番組の視聴回数は、約34万人。CNNが有料のケーブルテレビチャンネルであることを考えたらかなりの数だと言えるが、すでに述べた通り、ネイスタットのYouTubeチャンネル登録数は880万を超え、ひとつの動画が4900万回も見られている。彼にしてみれば、視聴者にリーチするのにCNNは必要ない。

 ただCNNが若者を取り組みたかったのと同じように、ネイスタットもYouTubeでは取り込めない層に名前を売ることができる可能性はあった。もしかしたら彼は、CNNの"本流"でも名前を広げようとしたのかもしれない。

 CNNは17年にもメッセージアプリのスナップチャットを使ったニュース番組をつくり、勝算を見出せずに4カ月で失敗した経緯がある。また22年までにデジタル部門で10億ドルを売り上げる目標を立てており、新しいスタイルを見つけるために躍起になっているようだ。

 大物ユーチューバーも、CNNの“模索”の犠牲になってしまったということだろう。ネイスタットにはちょっとした寄り道だったのかもしれないし、CNNにはよくある失敗のひとつにすぎなかったのかもしれない。

 CNNのデジタルとの融合は業界が注目しているが、取り組みが成功する兆候は見えていない。まだまだ時間がかかりそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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