JR西日本「山陰キャンペーン」で知る、JRグループの課題杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

» 2018年06月01日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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JRグループの総合力を見せてほしい

 山陰DCはJR西日本にとって大きなチャンスだ。しかし、JRグループの取り組みとしてはどうか。宣伝では協力しているけれども、自社の利用増に結び付ける企画がないところが気になる。

photo JR各社から山陰へのアクセス図。新幹線を推奨しているようだ(出典:「山陰デスティネーションキャンペーン」公式サイト

 JR東日本から山陰へ向かう列車は「サンライズ出雲」のみ。臨時便が出るとはいえ、キャンペーンで誘発された観光客が羽田から飛行機、あるいはJR東海の東海道新幹線で行ってしまっていいのだろうか。途中に並行在来線を挟むとしても、北陸経由で山陰へ直行できる「カシオペア山陰」が走ったら面白いのに、と思う。

 JR四国はどうか。瀬戸内海の向こう、さらに四国山地の向こうだけど、高松、松山から岡山へ、そこから「やくも」のルートを使い、出雲市へ至る列車があれば乗りたかった。上りの「サンライズ瀬戸」を東京へ向かわせず、岡山から出雲市に向かわせるというプランはどうか。

 JR四国は5月28日に「志国高知 幕末維新号が脱藩します」という、ユニークなタイトルのプレスリリースを発表した。観光列車として高知駅〜窪川駅で運行する幕末維新号がルートを離れ、伊予長浜駅〜松山駅を走るという。もっと思い切って、瀬戸内海を渡っても良かった(笑)。

 JR九州はどうか。あれだけある観光列車のうち、1つくらいは関門トンネルを通り抜けてくれたら面白かった。JR東海は新幹線で山陽区間に直通できる。しかし、大阪駅に乗り入れる「ひだ」と大阪発の山陰方面の列車を組み合わせる企画はできたかもしれない。JR北海道はさすがに遠すぎるけれど、新千歳空港と米子鬼太郎空港、出雲縁結び空港を介した山陰向けフリーきっぷを発行するという方法もあると思う。

 妄想混じりになってしまったけれど、何が言いたいかというと、「JRグルーブとして実施するキャンペーンが、ただの持ち回りの地域キャンペーンになりつつある」という状態がもったいない。せっかく宣伝しても、みすみす航空機や高速バスに客を渡しているようなもの。鉄道を使った長距離旅行の楽しさをアピールするチャンス。手間をかけてでも、なにか策を講じたらいいと思う。

photo 主要都市から山陰へのアクセス。鳥取〜新函館北斗間は最短で約9時間に見えるけれど、実際は新函館北斗発の北海道新幹線に乗り、東北新幹線、東海道新幹線、在来線特急スーパーはくとを乗り継いで鳥取着、所要時間9時間58分。ちなみに函館空港、新千歳空港から山陰への直行便はない(出典:「山陰デスティネーションキャンペーン」公式サイト

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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