1919年に出た石橋朝花氏の『紅き血の渦巻』(別所万善堂)のなかには、日本が大好きだという外国人のこんな言葉が掲載されている。
「されど悲しい哉、日本人に一の欠点あり、そは短気なる事なり、日本人は短気な国民なり」(P96)
また、1938年に出た『青年将校と共に国家を語る』(赤松寛美/春陽堂)には、「勤勉」「忍耐」「正直」といった平成日本でもよく自画自賛される日本人の美点が並べられている一方で、最後にこのようなマイナス点が述べられている。
「我国民は、斯の如き幾多の美質を有するのであるが、若し其欠点を挙げれば、即ち短気なことである」(P105)
この数年、「キレやすい高齢者」が増えている、といったニュースが多いが、それは「日本人は温厚」ということが大前提となっている。もともと、日本人は急にキレたりしない。温厚で他人に迷惑などかけない。にもかかわらず、「キレやすい高齢者」が増えていることは、なにか現代社会がおかしな方向へと進んでいるのではないか――。こういう危機感がニュースとなって伝えられているのだ。
だが、この大前提が間違っているとしたらどうだろう。
キレる高齢者たちがまだ赤ん坊だったころ、「日本人といえば短気」は自他ともに認める常識だった。短気な国民が高齢化すれば、「キレやすい高齢者」が増えるのは特に驚くようなニュースではなく、当たり前だ。
そう考えれば「満員電車」や「行列」なども、「気が長いから」という説明は成り立たない。むしろ、キレやすい人がおとなしく満員電車に乗り、黙って行列に並ぶことは、その短気さをねじ伏せるだけの、すさまじい「同調圧力」が我々の社会にはある、という見方になる。
つまり、我々日本人は生来、嫉妬深く、キレやすく、その短気さを押さえ込むほど同調圧力に弱い国民といえるのだ。
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