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「Amazonとは違う世界を」 古書店に眠る本を“検索”で蘇らせた元リコー社員熱きシニアたちの「転機」(2/5 ページ)

» 2018年08月20日 08時30分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

「いのちの電話」で「ブラジル帰りの女性」に出会う

 出向時代、仕事で知り合った人に誘われてボランティア活動を始めた。電話で悩み相談に乗る「いのちの電話」だった。河野さんは相談業務そのものにはかかわらなかったが、活動を通じていろいろな人と出会い、世界が広がった。

 そこで知り合った人の中に、ブラジル帰りの女性がいた。その女性から、「生活のために古本屋を始めたが、本を1冊でも多く売るにはどうしたらいいか」と相談を受けた。思い付いたのが、欲しい古書を簡単に探せる検索サイトをつくることだった。本業でソフト開発の経験のある河野さんにとって、さほど難しいことではなかった。

 こうして1996年、40歳の時に立ち上げたのが、スーパー源氏だった。スーパー源氏は用語辞典である『現代用語の基礎知識』に日本初の古書検索サイトとして収録されている。

phot 1980年ころ大阪で「ドブ板営業」をしていた新入社員時代の河野さん

 だが当時は、ネットが今ほど日常生活に深く入り込んでいなかった時代。時代の先を行き過ぎたのか、しばらく開店休業の状態が続いた。それでも、3年目ぐらいから利用者数が伸び始め、加盟店を増やすための営業やサイトの管理や改善のために河野さんが費やす時間も、徐々に増えていった。

 ある日、利用者からこんなメールが届いた。

 「祖父が書いた本を長年、探していました。いろんな書店に問い合わせたり、古本屋さんを訪ねたり、古本市を探したりしたが、全く見つかりませんでした。ところが、先日、スーパー源氏で探したら、あったのです。生まれて初めて祖父の本を手にすることができました。本当にありがとうございました」

 河野さんはその時の気持ちを、「自分のやっていることは世の中に役立っているんだということを初めて認識し、とてもうれしかった」と語る。

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