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内気な野球少年が悲しみを乗り越えて大人気水族館の「カピバラ王子」になるまでショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(2/5 ページ)

» 2018年08月21日 07時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

「魚なんて気持ち悪い!」 熱帯魚ボーイだった中学校時代の悔しい思い出

 地元・蒲郡で生まれ育った塚本さん。三河湾と低い山に囲まれた蒲郡市は自然が多く残り、釣りなどに興じる子どもを今でも見かけることができる。塚本さんもそんな子どもの一人で、小さい頃から生き物が大好きだった。

 「保育園児の頃は、近所の美容室で飼っていた2匹の犬に遊んでもらっていました。パピヨン種のルナとルパンです。2匹とも子ども嫌いなワンちゃんだったのですが、毎日のように会いに行ったことを覚えています」

 中学校に入ると、野球に打ち込む一方で熱帯魚の飼育に「どハマり」した。30センチ四方の小さな水槽でグッピーやネオンテトラを育て、熱帯魚仲間もできた。

phot 淡水魚も塚本さんの担当。安価な稚魚を購入して大きく育てるのが竹島水族館の節約術だ。「アロワナの子どもの展示は全国でも珍しいと思います」(塚本さん)

 「悪ノリすることが多い野球部の人たちにはついていけないと感じていました。野球をするのは好きだけど、野球部の友達はいません」

 野球の練習がないときを狙って、近所の川で魚を捕まえたりペットショップに出掛ける毎日。授業の合間には熱帯魚のカタログをずっと見ていたと塚本さんは振り返る。

 「あるときに隣の席の女の子から『魚なんて気持ち悪い!』といわれてしまいました。自分は家で犬を飼っているけれど魚と犬とでは全然違う、と。同じペットなのに何でそんなことを言うのかとイラッとしましたね。小さな水槽の中でいろんな色の魚を飼えるし、繁殖だってできるんです! 魚だって十分に楽しめることを彼女に思い知らせてやろう、と決めました」

phot 2014年9月入社の塚本さん。「見た目も性格もカピバラに似ているとたまに言われます」

 急に饒舌(じょうぜつ)になる塚本さん。よほど悔しかったのだろう。しかし、この苦い経験が現在の仕事に直結している。

 父親の仕事の関係で高校時代は米国で過ごした。現地でもハムスターや熱帯魚を飼い、「大学には行かずに生き物の仕事に就こう」と決意。2011年に帰国して専門学校に入るまでの期間に、地元にある竹島水族館でアルバイトを経験した。当時の竹島水族館は現在の館長である小林龍二さん(37歳)が主任飼育員に就任した頃である。客とスタッフの距離を縮めてアットホームな雰囲気にする方針をすでに打ち出していた。

 「他の水族館を知らなかったのでそれが当たり前だと思っていました。でも、専門学校に入ってから他の水族館に実習に行ったとき、飼育員がお客さんの近くにいないことにびっくりしたんです。近くにいたとしても、全然話していません。生き物の魅力をお客さんに伝える仕事に就くためには竹島水族館で働くしかない、と思いました」

phot 「子どもの頃から飼っていた淡水魚の飼育を仕事にできるなんて夢を見ているようです」と語る塚本さん。いま、仕事の迷いはまったくない

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