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内気な野球少年が悲しみを乗り越えて大人気水族館の「カピバラ王子」になるまでショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(1/5 ページ)

» 2018年08月21日 07時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論:

人口8万人ほどの愛知県蒲郡(がまごおり)市にある竹島水族館は、お金なし、知名度なし、人気生物なしという、いわゆる弱小水族館だ。だが、条件面だけ見れば「しょぼい」としか言いようのないこの水族館は、わずか8年前は12万人だった来場者数を40万人まで「V字回復」させた。その理由はどこにあるのか。個性集団とも言える飼育員たちの「チームワーク」と「仕事観」に迫り、組織活性化のヒントを探る――。


大人の観客からは笑いが起き、子どもは真剣な表情で見つめるカピバラショー

 「今からカピバラショーを始めます。アシカショーのようには盛り上がりませんのであまり期待しないでくださいね。(カピバラの)そらちゃんがエサをもぐもぐ食べる様子だけでショーの半分が終わってしまいます。あ、そらちゃん、勝手にそっちに行っちゃダメだよ……」

 ここは愛知県蒲郡市にある竹島水族館。「日本で4番目に狭い」水族館であり、大きな生き物と言えばアシカとタカアシガニ、そしてカピバラしかいない。その気になれば5分程度で観終わってしまう小さな水族館に、夏休み期間中ともなると家族連れを中心とする客が多く訪れ、館内の冷房が行き届かないほどだ。

phot 何度目かのトライで右前足の「お手」ではなく左前足の「おかわり」も実現

 人気の秘密は、飼育員たちが低予算の中で知恵を絞った企画の数々。高価な擬岩を減らして実現した「さわりんプール」はタカアシガニなどの深海生物に触ることができる。水槽よりも手書き解説版(POP)を楽しむ客も多い(関連記事)不気味な深海生物を食べ続けている飼育員(関連記事)による特別展「グルメハンター展」などは他の水族館ではまねできないだろう。

 全ての企画に共通するのは、なりふり構わずにお客さんを楽しませようとする生真面目なサービス精神だ。規模の小ささを逆手にとることも少なくない。アシカショーでは、「この水族館にはイルカがいないので、その分までアシカが頑張ります!」といった自虐トークで観客の笑いを誘っている。

 カピバラの飼育とショーを主に担当しているのは塚本祐輝さん(25歳)。自ら「陰キャラ」を認めるほどおとなしい人柄で、プライベートでは一人暮らしの家の隅っこで何時間もじっとしていると告白する。

 「小学校時代からハマっているカードゲーム『遊戯王』のカードをずっと眺めていたりします。大人になると自分で稼げるので歯止めが効かなくなりますね。数千枚はあると思います。一部をカードホルダーから出して、並べ替えて入れ直すだけでも一苦労です」

 確かにちょっと暗い。そんな塚本さんが勇気を振り絞って大勢の前に立ち、塚本さん以上に「人付き合い」の悪いカピバラと向き合って、失敗しながらも一生懸命にショーをするのだ。大人の観客からは親しみに満ちた笑いが起き、子どもは真剣な表情でカピバラと塚本さんを注視している。

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