頭を下げることができない人は危機管理に向いていない
体操女子選手の会見翌日、塚原副会長がイラつきながら「全部うそ」と言ったのも、千恵子氏が「正義は勝つ」と述べたのも、そして谷岡氏がマスコミに対して「怒りは沸点に達した」とキレたのも、全ては彼らが一般の人よりも「自分を正しいと信じる力」が強いからなのだ。
もちろん、これはスポーツ界の話だけではない。この自分至上主義によって危機が引き起こされるパターンは、官僚組織やB2B企業では珍しくない。閉鎖的な世界では、そのムラのルールを疑いもせずに信じていることが多い。
危機が発生しても、「自分を信じる」ことを長く続けてきた弊害で、外から厳しい批判がいくら寄せられても、耳をふさぎ、「この世界のことを分かっていない素人が余計な口出しをするな」と言わんばかりの横柄な態度をとって、大炎上となってしまうのである。
スポ根危機管理の問題点がなんとなくご理解いただけたと思うが、実はここに加えて、塚原夫妻と谷岡学長が不運だったのは、そもそも彼らが「危機管理」に適さない人種だったこともある。
一言で言うと彼らは「勝ち続けてきた人」なのだ。
夫妻はご存じのように、ムーンサルトを世界で初めて成功させた世界的レジェンドと、同じく五輪出場経験もある一流選手、かたや谷岡氏は学校経営を行う名門一族に生まれ、国会議員の経験もある。
無論、さまざまな挫折や我々一般人には計り知れない苦しみを経験してきただろうが、その困難を乗り越えて勝ってきた方たちである。こういう人は残念ながら危機の対応には向かない。これまで見てきたように、危機管理というのは勝負ではない。
自分たちは間違っていいないと思っていても頭を下げないといけない場合もあるし、前に進みたくない人と、建設的な話し合いもしなくてはいけない。
むしろ、どれだけ「いい負け方」をするかという側面があるのだ。こういう真理を理解しないで、「勝ち」に執着すると、危機管理は残念な結果に終わることが多い。
スポーツエリートが幹部を務める相撲協会やレスリング協会や、「名門」や「世界一」と持ち上げられてきた東芝や神戸製鋼のような大企業の危機管理がことごとく炎上してしまうのは、「勝ち続けてきた人」や「勝ちに執着をする人」が陣頭指揮をとっていることも大きいのだ。
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