筆者は企業の危機管理体制構築のお手伝いもするのだが、そこでよく危機管理担当役員や、緊急対策本部のトップをその企業のナンバー2が就くケースをよく見かける。
危機管理を重要視しているからがゆえだが、実はこれはあまりオススメできない。次期社長みたいな人は当然、「勝ち」に執着をする。そのため、これまで述べてきたようなスポ根危機管理に走って、問題をこじらせるパターンが多いのだ。
では、「勝ち続けてきた人」はまったく危機管理に携わってはいけないのかというと、そんなことはない。「勝ち」に執着する方でも、ある方面の感度が高ければ「危機」を見事に収束できる。
スポ根と真逆で、負けることを想像できる人間や、勝ちたくない人間、敗れた人間の心情をおもんぱかることができる人間は、危機に対して力や根性でねじ伏せようとせず、状況に応じて真摯(しんし)に向きあうことができる。
筆者の経験で言うと、危機管理とは結局のところ「想像力」なのだ。
そういう意味では、体操協会の具志堅幸司副会長は危機管理に向いている。夫妻の言動をすぐに打ち消して、「残念な言葉、いうべきではなかった」と言い切った。社会と女子選手側の思いにまでちゃんと想像力を働かせつつ、「暴力は断じて認めない」という協会側の主張も貫いた。
そんな具志堅氏の「想像力」をうかがわせるエピソードが日本私立大学協会のWebサイトに掲載されていた。
『コーチ時代、NHK杯体操の解説を行っていた際の和むエピソード。具志堅さんのあとを継いだ水島宏一選手がつり輪で失敗した際、「水島君、こんなこと言ってごめんなさいね。パワーが不足しているんですよ」と直接語りかけた』
負けた人の心情にちゃんと寄り添う。このような想像力がもう少し塚原夫妻にあれば、今回のようなパワハラ騒動は起きなかったのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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