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「浮いた残業代は社員に還元すべき」 アルプス電気・栗山社長口先だけの「残業減らせ」は無意味(3/5 ページ)

» 2018年09月19日 08時00分 公開
[中西享ITmedia]

SNSでの「スタンプ入り会話」に衝撃

――スマホを社員に支給し、仕事の効率アップにつなげているそうだが、その狙いは。

 当社は売上高の8割が海外ということもあり、私も海外に出張することが多かった。出張先では、取引先企業の多くがスマホを連絡手段としてフル活用しているのを見てきたのだ。海外では、当時からメールと個人のSNSを併用してコミュニケーションを取る一方、当社を振り返ると、SNSで取引先とやりとりをする社員は皆無で、メールも「いつも大変お世話になっております」といった形式的な書き出しから始まっていた。海外ではスマホのSNSを使い、いきなり本題から入る。

phot 一般社員にも導入し、希望すれば個人のスマホで会社のサーバにもアクセスできるようにしている(アルプス電気提供)

 米国の当社現地法人に出張したときに驚いた出来事があった。当社の社員が取引先に「他社と比べてうちの見積もりはどうか?」といったことをSNSで聞いたところ、怒った顔や笑顔のスタンプが送られてきたのを見せてもらったのだ。海外ではこういうニュアンスのある会話までスマホでしている。

 このような情報は公式な場ではもちろん得ることができないし、ましてや会社のサーバに記録が残るメールでは絶対に得られないのだ。シリコンバレーの取引先に行っても、取引先の出席者がスマホを触りながら打ち合わせていた。会議の場でひたすらスマホを触っているので「打ち合わせ中にもかかわらず個人スマホをやっているのか?」と一瞬怪訝(けげん)に思ったのだが、実は違った。打ち合わせ内容のサマリーをスマホで上司に送っていたのだ。

 日本の常識であれば、「貴社が帰国後に、上司と相談の上回答いたします」となるはずだが、米国ではその場で上司が返信をして、即時に意思決定をするのだ。「これがグローバル競争の現場なのか……。今までのやり方ではダメだ」と痛感した。 

 そういう経験から「スマホを使わない手はない」と思い、まず16年にマネジャークラスにスマホを支給した。その後、一般社員にも導入し、希望すれば個人のスマホで会社のサーバにアクセスできるようにもしている。いわゆるBYOD(Bring your own device)というものであり、その場合は会社から補助を出している。

 残業時間をどのようにするかは会社全体で随分と議論した。退社して会社からのメールが社員のスマホに届いた場合、メール着信状況のチェック自体は残業には含めていない。一方その後に得意先に電話したり、資料を作ったりするなど何らかのアクションを取る場合は、事前に上長が承認した上で残業時間扱いとした。あるいは上司から「このメールを読むこと」という指示を出した場合にも残業に含めている。

 厚生労働省や経済産業省はこうしたルールをはっきりとは定めていないが、当社ではどこから残業に該当するかを明確に定めている。この設計にも半年ほどかかった。

phot アルプス電気のコネクティビティ(通信)用製品群(同社提供)

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