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迫る“廃業の危機”を救ったのは……「後継者がいない」中小企業の物語個人も“会社を買う”チャンス(4/4 ページ)

» 2018年09月26日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]
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個人がM&Aの担い手になる時代

 「清建のケースでは、100社以上に打診しました」

 そう明かすのは、株式会社経営承継支援の笹川敏幸社長。双方にとって最適な相手を探すのは簡単なことではない。同社は、全国に設置されている「事業引継ぎ支援センター」や会計事務所などのネットワークを活用し、可能な限り最適な企業を探す。今回のケースの湯本内装は既存の顧客企業ではなかったが、手紙を書いてアプローチした。

photo 株式会社経営承継支援の笹川敏幸社長

 2015年に設立した同社の特長は、規模が小さい会社のM&Aも支援する点だ。笹川社長は「小さい会社こそ、相手先を探すのが大変。しかし、支援会社にとっては、M&Aの規模が小さいと手数料収入が少なくなる。中小企業のM&Aの需要はあるのに、対応できる支援会社が少ないのです。私たちは、残すべき事業だと思ったら、1社でも多く支援します」と話す。

 同社のコンサルタント1人当たりの年間成約件数は4.6件。業界平均の1.6件を大きく上回る。1件当たりの手数料が少なくても、件数が多いため、業績は伸びているという。

 今、相談や成約の件数はどんどん増えている。「20年前は長男が後を継ぐケースが9割でしたが、今は半分以下。子どもの職業選択を尊重し、“継がせるのは不幸”と考える経営者も多い。でも、特に地方には、人々の生活のためにつぶしてはいけない事業もあります。M&Aの社会的意義は大きくなっています」(笹川社長)

 事業を引き継ぐ担い手は会社だけではない。今、個人が会社を買って、経営の担い手になるケースも増えているという。

 「例えば、独立を目指していた薬剤師さんの支援実績がありますよ」と笹川社長は説明する。地域の人が使う、小さな薬局。後継者はいないが、地元の人の生活を支えており、なくなってしまうと困る。規模が小さいため、大手チェーンに買ってもらうこともできない。そんな店と、スキルを持つ個人が結び付いた。

 「実績がある事業を引き継ぐことは、一から起業するよりもリスクが低く、融資も受けやすい。経験を生かして新しいことをやりたい、地域のために事業をやりたいと思っている人にとっては、チャンスかもしれません」(笹川社長)

 同社は今後、個人への情報提供やセミナー開催などにも積極的に取り組んでいくという。さまざまなスキルや経験を持つビジネスパーソンが「大廃業時代」に歯止めをかけるきっかけになるかもしれない。

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