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「就活ルール廃止」後も“新卒一括採用”がなくならない、これだけの理由雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(4/6 ページ)

» 2018年10月03日 08時30分 公開
[海老原嗣生ITmedia]

完全に自由化すれば学業に支障をきたすことに

 なぜ、大学や行政、そして企業は、完全に「就活ルール」がなくなると困るのか。ルールを撤廃することにより通年採用になってしまうから、という理由は的を射ていない。就活ルールがなくなった先にあるのは「採用の超早期化」だ。実は、就職活動は1997年卒〜2002年卒までの5年間、ほぼルールがない状態だった。この時には、すさまじいまでの超早期化が起こったのだ。

 先陣を切ったのが松下電器産業(現パナソニック、文中「松下」)である。なんと01年3月に「新3年生(正確には2年次末)」を対象に、「採用目的で春休みにインターンシップを実施する」とぶち上げたのだ。続いて関西系の大手家電メーカーは、3年生の夏休みには採用を実施する。02年になると、東京でもメーカーを中心に3年夏のインターン採用は盛り上がりを見せた。当時の新聞報道にも採用直結型インターンを実施した大手企業の記事がある。

  • 01年4月11日の日経新聞が富士通に言及
  • 01年8月19日の日経新聞がJCBに言及
  • 02年8月26日の日経新聞が神戸製鋼、三洋電機、シャープ、旧三菱レイヨン、花王に言及

 その後、国内大手よりも先に採用を仕掛ける外資系企業は、2年冬休みに採用直結インターンシップを開催するようになった。自由化の先には、こうした状態が待ち受けているのだ。

 結果、大学では学業に支障をきたすことになった。そして、企業もこの早期化競争によって痛手をこうむった。早期に採用しても卒業までには2年間もあるのだ。その間に業績に変調をきたして採用計画を変更することもあったし、内々定を出した学生たちが就活を続け、他社へ流れるという頭の痛い問題も多発した。大学側も企業側もどちらもボロボロになり、倫理憲章の強化によって「4年生の4月が選考解禁」となることで一段落することになる。これが実際に起こった現実なのだ。

メリカリ「超早期採用」が踏む轍

 ITベンチャー企業のメルカリが、大学1年生からの採用を始めて自社に勤務させ、育成することをうたっている。ただ、こちらも結果は同じになることが目に見えているのではないか。

 すでに大手アパレル企業や管理系ソフトウェア大手などで、超早期採用や社内育成は行われてきた。ただ、その結果は必ずしも奏功しているとはいえないと思われる。手塩にかけて育てた優秀な学生の多くが、4年次の就活本番時期に総合商社などに応募し、流出してしまったからだ。

 そこで、前述の管理系ソフトウェア大手は「他社に就職しても5年以内なら、採用する」という入社パスポートまで用意するほど、涙ぐましい努力をしている。流出はそれほど激しいのだ。

通年採用をすれば「決まらない学生の駆け込み寺」になる

 通年採用というと、秋や冬など「遅くまで採用する」と考える人もいるだろう。これにも先行事例は多々ある。その昔、まだ日本に来たばかりの、マイクロソフトをはじめとした大手外資系企業が、通年採用を実施していたのだ。だが、その多くが現在、通年採用をやめている。応募してくるのは、何十社も不合格となった学生たちばかりだったからだ。秋口に就職ナビに募集広告など出したものなら、決まらない学生たちが大量に応募してくるばかりで、対応ができなかった。

 「いや、通年採用をしている企業は多々ある」という声が聞かれそうだ。確かに今でもヤフーが通年採用をしている。その他にも、ハードなノルマを課すような不動産会社や住宅会社、ファッション眼鏡チェーン、コンビニ大手なども秋季採用を実施中だ。

 それだけでない。多くの大手メーカーも、少なくとも理系に関しては通年で採用している。彼らが通年採用をする理由は簡単だ。採用数が充足せず、採用活動を続けざるを得ないからだ。たとえ有名でも不人気な企業は採用枠が埋まらない。人気企業でも理系のような希少人材は、やはりなかなか枠が埋まらないのである。だから、必然「通年採用」となる。大手でも不人気企業は通年となるし、ましてや無名の中小企業は秋・冬まで採用を続けるのが当たり前なのだ。

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