V60 ベストボルボの誕生池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2018年10月01日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
新型V60は全幅1850mmと、日本のパレット式駐車場を意識したサイズでデビューした 新型V60は全幅1850mmと、日本のパレット式駐車場を意識したサイズでデビューした

 9月25日、ボルボはラインアップの中核を担う60シリーズをモデルチェンジして発表した。

 まずはマトリックスを参照いただきたい。

ボルボ商品ラインアップのマトリックス ボルボ商品ラインアップのマトリックス

 ボルボの商品展開はかなりロジカルで、フラッグシップの90シリーズ、メインラインの60シリーズ、そして普及モデルの40シリーズの3つのクラスを持ち、それぞれにセダン、ワゴン、SUVを用意する。原則はそれだけだ。

 Cセグメントの40シリーズにはセダンはない。相応しいモデルにはそれぞれ車高を上げたクロスカントリーが用意される。例えば、V90にはありで、S90にはなし。XC90は最初から車高が高いからなし。60シリーズの場合、やがてV60には確実に追加されるはずで、S60は微妙だが、先代はありだった。V40はあり。

モジュラー設計で生き残ったボルボ

 ボルボの場合、フォード傘下からの離脱以降、使えなくなったフォードグループのエンジニアリング資産の代わりに、人も資金もない中で必死に、独自フルラインアップの再構築をやってきたため、とにもかくにもラインアップをロジカルに構築するしかなかった。

 60シリーズと90シリーズはSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)。40シリーズはCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)と全ラインアップを2つのシャシーだけでカバーする。

全体としてよく均整のとれたプロポーション。一時に比べて話題になりにくいワゴンに新風を吹かせることができるか? 全体としてよく均整のとれたプロポーション。一時に比べて話題になりにくいワゴンに新風を吹かせることができるか?

 パワートレインの方もドライブEと名付けたモジュラー設計のパワートレインで全てに入れ替えた。かつて使っていたユニットはもうフォードが売ってくれないからだ。

 シャシー同様、カネと人がいないからパワートレインの構成もロジカルで、順列組み合わせのマトリックスになっている。ディーゼルとガソリンの基本に、パワーが必要なモデルにはターボ、スーパーチャージャーを組み合わせ設定しつつ、マイルドハイブリッドやPHVなどのモーター付きユニットも選択肢に組み込んでCAFE(企業平均燃費)やZEV(ゼロエミッションビークル)などの各国環境規制への備えとする。

 全てのエンジンの25%が共通部品に、50%が類似部品になる。エンジンバリエーションごとに新造される部品は残る25%だけだ。

 こういう全体構成に対するビジョンがあればこそ、小さな会社でありながら全ラインアップを新たに作り直すことができた。

 こうした戦略が予定通りうまくいっているかは、販売台数を見れば明らかで、2015年に創業以来初の50万台超えを記録しただけでなく、毎年記録を更新。しかも営業利益でも過去最高を塗り替えるといった具合で絶好調なのだ。18年1〜8月の累計も前年同期を14.5ポイント上回っている。

 売れたか売れないかだけでなく、クルマの評価そのものでも「欧州カーオブザイヤー」と「日本カーオブザイヤー」を受賞し、世界各国で250もの賞を獲得した。この受賞ラッシュが示す通り、これまで賞とあまり縁がなかったボルボが手のひら返しで高い評価を受けている。地味なボルボがこういう評価を得るようになったのは、フォードにハシゴを外された後、「このままでは死ぬ」という必死の思いでラインアップの再構築という大事業に挑んだからこそであり、目前に迫った窮地に対して、そこから手持ちのリソースでできることを見定め、選択と集中を徹底的にやり抜いた結果である。

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