インタビュー
» 2018年11月18日 10時00分 公開

戦力外になった後輩に経験伝えたい:高卒でプロ野球を戦力外 16年後に「公認会計士」になった男の逆転人生 (5/6)

[濱口翔太郎,ITmedia]

プロ野球選手だったのに“三振”

 短答式試験に合格すると、その後2年間は同試験が免除される。2次試験に相当する「論文式試験」に計3回チャレンジできるのだが、記述回答への対応に苦労した奥村さんは全て落ちてしまう。いわば“三振”だ。

 甲子園行きに続き、またしても直前でチャンスを逃したことで、かなり落ち込んだ奥村さん。一時は「公認会計士は諦めよう。簿記1級に目標を下げて、取得後はコンサルティング会社に入ろうか」などと考えたというが、再び彼女が発破を掛けてくれた。

 「彼女は『中途半端に道を変えてきた人間にコンサルされたい人がどこにいるの? ここで逃げたらこの先も逃げるようになるよ』と、ここで諦めることに大反対でした。この言葉を聞いて、もう一度頑張ろうとギアが上がりました」

 これまでの勉強方法に行き詰まりを感じ、何かを変える必要があると感じた奥村さんは、試行錯誤の末、「野球の練習と同じ姿勢と方法で勉強と向き合う」という手法に行きつく。

 トライアンドエラーを繰り返し、失敗の原因を分析して成長する練習法、本番に向けたメンタルの作り方、確率に基づいた意思決定――。野球人生で自然と身に付いた手法を、試験勉強に取り入れることにしたのだ。

photo 野球に向き合う姿勢を勉強に取り入れた(写真提供:奥村武博さん)

“野球と同じ勉強法”で合格

 「試験で緊張せずに結果を出すために、大事な試合でマウンドに上がっていた頃に使っていた、本番にピークを持ってくる調整方法を取り入れました。試験で解き切れない問題を捨てる判断を速くしたり、論述の下書きの無駄を削ったりする作業は、0.1秒でも早く投げて盗塁を防ぐクイックモーションに似ています。野手の調子や試合の流れからヒットを打つ確率を算出し、代打を送るか否かを決める判断は、出題可能性や重要性を踏まえた事前対策の取捨選択に似ています。野球のスキルは、実は勉強のいろんな局面に応用できるのです」

 こうした独自の理論のもと、風呂やトイレの中にもテキストを持ち込んで勉強したという奥村さんは、2013年11月に公認会計士試験に合格。苦節10年間の努力を実らせた。その後は監査法人に所属し、小売業、不動産業、サービス業などさまざまな企業の監査実務の経験を積み、修了考査に合格。17年に公認会計士登録をした後は、選手時代の人脈を生かし、現役アスリートをクライアントに抱え、確定申告や資産形成のサポートのほか、引退後を見据えた会社設立の相談、事業計画のアドバイスをしている。

 「プロ野球選手になった時は、その時点がゴールだと感じていました。けれど今は、うかれた気持ちは一切ありません。私はまだ“ペーペー”。公認会計士になることがゴールではなく、自分自身を高め、スポーツ選手のキャリアのロールモデルになることが目標です」

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