阪上さんが実際に「ハイ」の営業担当に話を聞いたところ、転職希望者から以前の職場がどこか聞きだした上で「あそこの職場はこういう点が大変でしたよね」などと会話をつなぐことで、彼らの気持ちにうまく共感しているのだという。「営業が転職希望者への共感を表明することで『私の職場を知っているんだ』と感じてもらい、上手に信頼関係を築くことができるようだ」(阪上さん)。
他にも、優秀な営業は転職希望者にある情報を説明する際に、その理由や根拠をきちんと意味づけして説明している人が多かった。「趣旨としては〜」「理由としては〜」といった言葉がよく使われていたという。「営業が、今その転職情報が浮上しているという理由だけで転職希望者に提供しているのか、それとも相手に適した仕事だから勧めているのか、電話のやりとりだけだと不信感が募りやすいようだ。営業側の情報を押し付けるだけでなく、背景も説明することで顧客はより納得できると考えられる」(阪上さん)。
同社がこうした電話営業の会話分析を進めている背景には、どうしても属人的になりやすい営業スタイルの向上を図る狙いがある。さらに事業規模の拡大によって、18年には採用した新卒約230人のうち200人ほどが営業に配属されるなど、新人教育の手間が急増していることも大きいという。阪上さんも「(ベテラン社員も)営業で自分が何をしゃべっているのかを社内で共有することは難しい。暗黙知を(文章や図表で表せる)形式知にする場が求められていた」と指摘する。データで客観的に効果を説明できる営業ノウハウならば説得力もあり、社内教育に適していると考えた。
同社ではこうした分析結果から得られた営業ノウハウを、実際に現場の研修などに取り入れようとしている。ただ課題も無いわけではない。優秀な営業が実践していた「顧客の経歴をまず聞く会話スタイル」については、「聞き出した職場が営業担当者の全く知らない所だった場合、『ああそうですか』としか返答できない。これはある程度熟練した営業でないと打ち返せない可能性がある」(阪上さん)とみる。得られたノウハウを新人からベテランまで全営業に適用できるかは未知数ともいえる。
同社では、全社の電話営業に範囲を広げて会話内容を分析しさらに多くの知見を得ようと、低コストで音声データをテキストに変換して分析する技術の導入も模索している。会社によっては「勘と経験」、あるいは「根性」といった主観的な尺度で良しあしが決められがちだった営業業務の真のコツが、データ解析で突き止められる日も遠くないかもしれない。
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