報道各社がゴーン氏を悪人に仕立て上げ、それを追求する正義の西川社長という対立構造を作っているようにも見えるが、これは無理がある。会社に損失を与えたゴーン氏に責任があるのなら、それを止められなかった西川氏をはじめ役員一同にも責任があるからだ。
道義的責任とか連帯責任とかといった話ではなく、善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)といって会社法上、役員に課せられた法的な責任だ。従業員や管理職ではなく、株主から経営のプロとして会社運営を任された役員はうっかりミスで会社に損失を与えることは許されない。
経営者が最善を尽くして結果的に損失が発生した場合には責任が問われることはなくても、やるべきことをやらず損失を与えた場合には責任を問われる。ここでいう「やるべきこと」の中には、今回指摘されているような私的流用の監視などほかの役員の不正も含まれるだろう。
西川氏はゴーン氏の功績を認める一方で、長期政権でゴーン氏に権力が集中していた、それはゴーン体制の負の側面であると会見で語っている。権力が集中しているから問題が起きたとはいえないが、誘因になったともいう。
このあたりは無責任な発言に聞こえないように気を使っているようにも読み取れたが、長期政権による権力の集中と、それがガバナンスの崩壊に強く影響したのではないか? という記者からの重ね重ねの質問に対して、否定とも肯定とも取れないような回答に終始している。
当然のことながら一従業員ではなく役員として、代表取締役副社長として、ゴーン氏に次ぐ権力をもった西川氏が、ゴーン氏に権力が集中していたので問題を止めることは難しかったと考えているのであれば、それは極めて無責任だ。
取締役は善管注意義務ともうひとつ、忠実義務を背負うため、自身の利益より会社の利益を優先する義務がある。もし取締役の中に、ゴーン氏に意見してクビにされたり左遷されたりしたら困るから余計な口出しをしないでおこうと考えた役員がいたとしたら、それは株主に対する背信行為となる。
2018年度の日産の役員報酬は平均で2億円程度、西川社長に至っては5億円だ。ゴーン氏ほどではないにせよ、日本国内では極めて高い水準にある。このような高い報酬は、求められる責任の重さと引き換えであることは言うまでもない。
プロ経営者として自動車業界を渡り歩いたゴーン氏と対照的に、日産生え抜きの西川氏は、公式なプロフィールを見ると2000年10月、欧州日産の部長に就任とある。1999年にゴーン氏がCOOに就任した時点ではまだ部長よりも職位が低く、グループ内に大勢いる管理職の一人でしかなかったが、その後はメキメキと頭角を現し以下のように昇進に昇進を重ねる。
西川広人社長の経歴 | ||
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2001年 | 4月 | ルノーニッサンパーチェシングオーガニゼーション エグゼクティブ ゼネラル マネジャー |
2003年 | 4月 | 日産自動車株式会社 常務執行役員 |
2005年 | 4月 | 同社副社長 |
2005年 | 6月 | 同社副社長、取締役 |
2011年 | 6月 | 同社代表取締役、副社長 |
2013年 | 4月 | 同社代表取締役、副社長、チーフ コンペティティブ オフィサー |
2015年 | 6月 | 同社代表取締役、チーフ コンペティティブ オフィサー、 副会長 |
2016年 | 11月 | 同社代表取締役、共同最高経営責任者、 副会長 |
2017年 | 4月 | 同社代表取締役、社長、最高経営責任者 |
2005年には取締役副社長、2011年には代表権のある副社長となっている。ゴーン氏の右腕と呼ばれるのも納得で、あとを継いで社長になったのも当然といえる経歴だ。
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