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» 2018年11月28日 16時27分 公開

ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 前編ゴーンショック(4/4 ページ)

[中嶋よしふみ,ITmedia]
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不正に気付いていたかと役員の責任の有無は関係がない

 私的流用や虚偽記載が事実であると西川氏が主張するのであれば、西川氏および周囲の役員は気付いていたが黙っていたのか、あるいは気づかなかったのか現時点では明確ではないが、いずれの場合でも善管注意義務を果たしているとは考えにくい。どちらであっても役員にとっては重大なミスであることに変わりはないからだ。

 奇妙なことに西川氏がゴーン氏を批判し、そしてそれが正しければ正しいほど、西川氏およびほかの役員が問われる責任も大きくなる。司法取引には二人の役員が応じていると報じられているが、これは刑事責任が減免されるだけで、あらゆる責任がゼロになるわけではない。特に民事については無関係なので、役員は株主代表訴訟で多大な賠償請求を起こされる可能性もある。

 ひとつ例を挙げるならば、投資目的で作られた子会社を通じて住宅購入がなされゴーン氏が個人的に流用したと報じられている件については、監査法人から度々問題を指摘されたが、日産側は問題ないと回答していた。この回答は本来対応すべき経理部門ではなく秘書室が行ったという(監査法人、日産に疑義「海外子会社の実態不透明」2018/11/26 産経新聞)。

 こういった奇妙なやり取りについても、ゴーン氏一人の問題ではなく日産のガバナンスが壊れていることを示している。日産の企業としての問題はイコールで経営陣の問題になる。

社長の西川氏に責任はあるのか?

 まだ事実関係に疑問はあるものの、報道の範囲ではゴーン氏が自身の著書について社員も多数協力したのに印税は全て独り占めしたといったセコい話から、元妻が経営する飲食店を社員が手伝っていた、結婚や離婚に関わる費用を会社に出させていた、各地に豪邸を作らせていた、さらには親族へ業務委託料、娘の学校への寄付、家族旅行など、ありとあらゆる私的流用や公私混同の話が出ている。

 そして、ゴーン氏がプライベートで発生させた17億円もの投資の損失を会社に付け替えたと報じられている件に至っては、悪質過ぎてほとんど冗談としか思えないレベルだ(ゴーン前会長の投資損17億円、日産に転嫁か 銀行容認:朝日新聞デジタル2018/11/27)。日産側ではどのような経理処理がなされたのか、そして銀行もゴーン氏の損失付け替えの提案を受け入れたというが金融機関側でも一体どのような処理がなされたのか。

 筆者も零細企業を運営する経営者だが、同じことをやろうとしたら税理士に「絶対にやめて下さい。本気でやるなら辞めさせてもらいますよ」と怒られる内容だ。これが何十億円も報酬をもらうプロ経営者のやることなのか。

 「李下に冠を正さず」と諺を持ち出すまでもなく、筆頭株主ルノーの威光を背負うゴーン氏が私的流用の疑いをもたれる時点で経営者として失格と言わざるを得ない。

 そして、そのような振る舞いをとめることができなかった役員にも責任がある。筆者が確認した限り、西川氏らほかの役員の責任を問うている報道はごく一部だが、以下紹介したい。

刑事責任とは別に、西川広人社長ら取締役の民事上の責任が問われかねない。虚偽記載や不正支出を見過ごし、会社に多額の損害を与えた場合、注意義務違反による損害賠償訴訟のほか、株主代表訴訟に至る可能性もありそうだ。

言うまでもないことだが、有価証券報告書は、代表取締役2人で作成できるようなものではない。財務や経理担当の役職員や、監査役・監査法人などその他多くの関係者の作業を経て作成されるものである。日産自動車ほどの大企業となれば、その数は少なくとも数十人には及ぶであろう。

したがって、被疑者2人以外にも、過少申告の事実を知りながら作成に協力したものが存在する可能性が高い。その場合、関与者も関与の度合いによっては、共犯関係にあると言えるであろうし、また、取締役や監査役については会社法上の善管注意義務違反について、株主などから訴訟を提起され、会社に対して損害賠償を求められる可能性は十分にある。

今回の会見で、まだ容疑段階であるにもかかわらず、激しい「ゴーン批判」を繰り広げた西川社長を、ネットでは「男らしい」ともてはやしている。確かに、もの言いがはっきりしているのは悪いことではないが、企業の危機管理的にはかなり型破りだ。いや、「異常」といっていい。

「逮捕=有罪」ではない。いくら不正をしていた証拠をつかんだにしても、司法の判断はこれからなのに、企業が元経営者をここまで激しく批判するのはかなり珍しい。

〜中略〜

しかも、攻撃相手は一役員ではなく、かつてこの企業の全権を握っていた人物で、西川氏は長く側近として仕えた。自分たちにも延焼しかねない話であるにも関わらず、自信たっぷりに悪者をゴーンだけに限定できるのは、よほど何か大きな「保険」があるとしか思えない。

 当初の社長会見があまりにセンセーショナルであったことから、そして私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となったが、報道各社は本来であれば企業としての責任にもっとフォーカスすべきだ。記者会見の全体のやりとりを見ると企業としての責任、役員や西川氏の責任を記者がきっちりと追及するバランスのとれた内容になっているが、実際の報道内容はゴーン氏の責任に偏り過ぎている。

 ※後編に続く

執筆者 中嶋よしふみ

保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。

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