だが、これまでスマホなどのデバイスを使いこなせていなかった年配世代に「業務でもっと活用するように」と言っても、理想通りに事は進まなかった。
それでも東日本大震災での経験から早急に組織運営を見直す必要があると感じていた高島市長は、人事の見直しに着手することにしたのだ。適材適所の理念に基づき、大規模な人事異動を実施した。
「私が就任してから約8年になりますが、既に8回の人事異動を実施しました。年齢や経歴などにとらわれず、実力が発揮できるポジションに人材を登用するようにしています。実績にもこだわっているため、結果として8回も配置換えを行うことになりました」
有事の時にこそ行政の意義が問われる。想定外だらけの状況下でどれだけ柔軟的かつスピーディーに動けるか。SNSを含め利用できるツールをクリエイティブな発想で応用できる人材が然るべきポジションに就くべきだ。
高島市長が実施した人事改革は、年功序列にのっとり年次に見合ったポジションに就いていた(就ける予定だった)職員からすれば無情な采配だったと言えよう。もちろん、この方針に対しても最初は周囲から大反発を食らった。
だが、より良い自治体を目指すには新たなツールや技術を採用し、社会の変化のスピードに着いていける行政でなくてはならない。それは東日本大震災の時に痛感している。高島市長は押し切った。
逆境に負けず改革を進めていった結果もあり、16年4月に起きた熊本地震では東日本大震災で学んだことを生かせたという。特に円滑な物資の供給を実現できたことは大きな成果だった。
これまで支援物資の管理は紙や電話で行うことがほとんどだった。そのため物資の供給情報をリアルタイムで共有できず物資が1カ所に集中してしまい、貴重な物資を廃棄するケースもあったという。東日本大震災時に福岡市でもこのような残念なことが起こっていた。
だが、そんな経験があったからこそ熊本地震の時には迅速に対応できたという。福岡市は包括連携協定を締結しているNTTと連携し、震災直後に「避難所運営支援システム」をわずか1週間半程度で開発。このプラットフォームを活用することで避難所や自治体、物資集積拠点にある物資の情報をリアルタイムで共有することが可能になった。
その結果、福岡市が支援を担当した30カ所以上の避難所では過剰な物資供給や物資不足といった供給の偏りを解消できたのだ。「最初は風当たりが強かったですが、こうした実績を少しずつ積み重ねていくことで、私の取り組みも徐々に認められるようになった気がします」と語った。
また、福岡市の職員が熊本地震の際に、迅速に対応できたのは普段から新しいツールやサービスを活用していたからだ、と高島市長は分析。「平時の際に利用できないものは有事の際にも利用できない」。常日頃から何が行政のためになるのか意識することが大事だという。
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