長谷川: 「ONE」については、どうしてレシートに注目したんですか?
山内: 僕は「価値の非対称性」と呼んでいるんですけど、ある人にとっては価値が高いけれど、ある人にとっては低い――というものの取引に関係するビジネスが、今、ものすごく増えているんですよね。「メルカリ」やバンクの「CASH」はまさにそうです。もっと言うと、広義のシェアリングエコノミーも、自分にとっては「価値の低い時間帯を誰かに貸す」という点で同じです。
こういうビジネスモデルが圧倒的に増えている背景には、「あらゆるモノや価値の流動性が上がっている」ということがあると思って、何かそういうビジネスを作れないかと、最初は金券の流通を考えました。金券はモノの担保が難しいので、僕らが買い取って、全部検品してから業者に流したり、逆にセカンダリーマーケットを作ったりする――といったビジネスモデルです。でも、それって僕の中ではあんまり面白くないというか、「ビジネスとして普通過ぎるな」というのが正直な気持ちで……。
そんな中で、「もうちょっとスモールスタートでできる、何か違うものはあるかな」と考えてみたらレシートがあったんです。レシートって、ものすごくたくさんあって、かつデータとしてかき集めればしっかりとした統計データになるから、企業に対して売り込むことができるんじゃないかと。だから、ものすごくスモールにスタートしようと思ってレシートにした、という感じです。
長谷川: でも、スモールではないスタートになったんですね。
山内: そうなんですよね。そこが最大のミスというか、想定した以上に広がってしまって……。
長谷川: あれは、「この枚数までいったら止めよう」というのをちゃんと考えながらやってた? それとも、「そんなにくるわけない」と思ってやってみたら、バーっと来て「ヤバいヤバいヤバい」と思って止めた?
山内: 後者です。「ヤバいヤバいヤバい!」っていう感じです。社内では前日に、「もしかしたら初日の登録が6万人ぐらいいくんじゃないか」という話をしていて、フタを開けてみたら初日に12万人くらい、その週で40万人ぐらい登録があったので、想像を超えてたかなっていう……。
長谷川: 初日は何枚でストップしたんでしたっけ?
山内: 25万枚ぐらいですね。1万枚ぐらい集まったらいいな、でも、そんなにいかないんじゃないかな、と思ってたんですけど……。
長谷川: 1枚10円計算ですよね?
山内: はい。だから250万ぐらいなので、別にそんな大きな額じゃないですね。
長谷川: 確かにね。販促費だと思ったら、全然ペイする感じですね。
山内: ただ、15時間で250万ぐらい出ちゃったので、月で計算したら相当だなと。そのままコンスタントに買い取り続けるのは無理だと判断しました。
長谷川: 「金が出ていく〜」みたいな感じだったんですね。そのときは、レシートのデータの売り先というのは、もう決まってたんですか?
山内: 実は全く決まってなかった(笑)。
長谷川: やっぱり。
山内: その後、レシートのデータそのものを売るのではなく、アプリに広告を表示するということを始めました。
例えば中古車買い取りサービスの「DMM AUTO」から出稿してもらったときは、ガソリンスタンドのレシートを登録してもらい、登録後の画面に全面広告を表示しました。これは、ガソリンスタンドのレシートを持っているということは車かバイクを持っているということで、実データに基づいたターゲティングができるのと、登録してお金をもらった後だと広告をタップする気になりやすいだろうという仮説があったからです。
長谷川: なるほど。レシートの内容とは別に、「そのレシートを持っているあなたに価値がある」ということで、それに対してお金を払うのは、価値の転換ですね。
山内: 「Twitter」なんかに出てくる広告って、みんな「ウザい」って言うんですよね。その理由は、どうして自分にその広告が表示されるのか分からないし、タップすることに何のインセンティブもないからです。この2つのウザい要因を取り払えばコンバージョン率が上がると以前から思っていて。実は中国ではすでにこのモデルがはやり始めているんです。「ユーザーに広告と一緒にお金を送る」ということをやっている企業がすごく成長しています。そのモデルと全く同じものを作ったら、案外いけるんじゃないかと思って。
長谷川: ちょっと待って。それは、広告をクリックすると、ユーザー側にチャリーンとお金が入ってくるということ?
山内: 違います。インプレッションに対してお金を払うんです。例えばLINEで企業アカウントを友だち追加すると、広告が送られてくるじゃないですか。あれと一緒にお金が送られてくるような感じです。中国では、それでCTR(クリック率)が50%超えるようなケースがあったりして、これはしっかり成り立つ仕組みだな、と思って。
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