状況証拠を積み上げていけば、東急電鉄がJR北海道で観光列車を運行できる理由も見えてくる。
そもそも東急電鉄は他の私鉄と異なり、自社の路線網で観光列車、観光特急を走らせた経験はない。「THE ROYAL EXPRESS」は東急電鉄が幹事となって集客し、車内サービスも実施するけれども、運行路線は横浜〜伊豆急下田間だ。JR東日本の東海道本線・伊東線と伊豆急行線を走る。つまり、運転系統とサービス系統を分離している、上下分離タイプの観光列車だ。東急電鉄は、観光列車サービスビジネスの経験値を蓄えてきた。いまJR東日本と伊豆急行が担当している運行部門がJR北海道に変わるだけだ。
この「運行と営業の上下分離方式」の観光列車は東急電鉄の発明ではない。前例は北海道にある。道南いさりび鉄道の観光列車「ながまれ海峡号」だ。運行部門は道南いさりび鉄道が担当するけれども、集客販売、車内サービスの手配は旅行会社の日本旅行が丸ごと抱えている。
北海道新幹線の並行在来線を継承した道南いさりび鉄道は、観光列車運営のノウハウもなければ、旅行業取扱主任者など人的リソースも割けない。営業部門を持って広告を打つなどの営業費も捻出しにくい。一方、日本旅行としては、鉄道会社が運行する観光列車の座席を販売するだけでは利益が少なすぎる。
そこで、日本旅行が観光列車運行の業務を一手に引き受け、道南いさりび鉄道に運賃と車両使用料などの形で利益を分配する。同様の仕組みは、平成筑豊鉄道が新たに運行する観光列車「ことこと列車」でも行われている。こちらは営業販売をJTBが担当する。
平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」も水戸岡鋭治氏の作品だ(出典:平成筑豊鉄道 )
一方、先に運行開始する「びゅうコースター風っこ」は、JR東日本仙台支社管内の臨時列車に使われているディーゼルカーだ。普通列車用車両の車体側面の窓と壁を取り払い、トロッコ客車風にして、風通しを良くした。だから「風っこ」である。この車両はディーゼルカーだから、保安装置と組み合わせるだけで、JR北海道の全ての路線で運行できる。JR北海道にも同型車がたくさんあるから運行も差し支えない。従って、こちらはJR東日本が車両を貸し出し、JR北海道が運行する形になる。
「びゅうコースター風っこ」は側面に大きな開口部を作ったトロッコ列車風のディーゼルカー。乗客は風を浴び、自然に触れる(出典:JR東日本報道資料 )
東急がJR北海道に“異例”進出! 全国127の観光列車を「分布図」にすると……
JR北海道が東急電鉄の豪華観光列車を運行すると報じられた。“異例”の取り組みがどうなるか注目だ。「観光列車大国」の日本には127もの観光列車があるが、まだ空白地帯もある。そこに商機があるかもしれない。観光列車の「分布図」を作ってみると……
鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか
赤字ローカル線の救済策として「上下分離化」が進行中だ。鉄道会社とバス会社の施設負担について格差解消を狙った施策とも言える。しかし、日本における上下分離化は鉄道会社間の不公平の始まりでもある。運行会社が1社しかないからだ。
東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。
新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ
JR北海道は、当初の予定だった現駅案を頑固に否定し続けた。主な理由は「在来線の運行に支障が出る」「プラットホームの広さを確保したい」としてきた。しかし、真の理由は他にある。「エキナカ、エキシタショップの売り上げが減る」だ。JR北海道の10年間の副業を守るために、新幹線駅は未来永劫、不便な駅になろうとしている。
JR北海道の“大改造”構想 「新・新千歳空港駅」「ベースボールパーク新駅」
新幹線札幌駅が決着したJR北海道に新たな動きがあった。北広島市のベースボールパーク新駅構想に引き込み線方式の大胆案、新千歳空港駅も大改造構想が立ち上がる。JR北海道だけではなく、北海道全体にとっても良案だ。
北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.