観光列車に本気出すJR北海道の“到達点”はどこか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2019年02月15日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

観光列車運行を可能にする「上下分離方式」「車両レンタル方式」

 状況証拠を積み上げていけば、東急電鉄がJR北海道で観光列車を運行できる理由も見えてくる。

 そもそも東急電鉄は他の私鉄と異なり、自社の路線網で観光列車、観光特急を走らせた経験はない。「THE ROYAL EXPRESS」は東急電鉄が幹事となって集客し、車内サービスも実施するけれども、運行路線は横浜〜伊豆急下田間だ。JR東日本の東海道本線・伊東線と伊豆急行線を走る。つまり、運転系統とサービス系統を分離している、上下分離タイプの観光列車だ。東急電鉄は、観光列車サービスビジネスの経験値を蓄えてきた。いまJR東日本と伊豆急行が担当している運行部門がJR北海道に変わるだけだ。

 この「運行と営業の上下分離方式」の観光列車は東急電鉄の発明ではない。前例は北海道にある。道南いさりび鉄道の観光列車「ながまれ海峡号」だ。運行部門は道南いさりび鉄道が担当するけれども、集客販売、車内サービスの手配は旅行会社の日本旅行が丸ごと抱えている。

 北海道新幹線の並行在来線を継承した道南いさりび鉄道は、観光列車運営のノウハウもなければ、旅行業取扱主任者など人的リソースも割けない。営業部門を持って広告を打つなどの営業費も捻出しにくい。一方、日本旅行としては、鉄道会社が運行する観光列車の座席を販売するだけでは利益が少なすぎる。

 そこで、日本旅行が観光列車運行の業務を一手に引き受け、道南いさりび鉄道に運賃と車両使用料などの形で利益を分配する。同様の仕組みは、平成筑豊鉄道が新たに運行する観光列車「ことこと列車」でも行われている。こちらは営業販売をJTBが担当する。

photo 平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」も水戸岡鋭治氏の作品だ(出典:平成筑豊鉄道

 一方、先に運行開始する「びゅうコースター風っこ」は、JR東日本仙台支社管内の臨時列車に使われているディーゼルカーだ。普通列車用車両の車体側面の窓と壁を取り払い、トロッコ客車風にして、風通しを良くした。だから「風っこ」である。この車両はディーゼルカーだから、保安装置と組み合わせるだけで、JR北海道の全ての路線で運行できる。JR北海道にも同型車がたくさんあるから運行も差し支えない。従って、こちらはJR東日本が車両を貸し出し、JR北海道が運行する形になる。

photo 「びゅうコースター風っこ」は側面に大きな開口部を作ったトロッコ列車風のディーゼルカー。乗客は風を浴び、自然に触れる(出典:JR東日本報道資料

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