戦略ミス?競合の躍進?景気のせい? どうして赤字になってしまったのか。どうして顧客は離れていってしまったのか。そして、どのようにして再び這い上がったのか。本特集では紆余曲折を経験した企業や自治体などの道のりを詳しく紹介する。
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ゾウはいません――。一見、ネガティブな表現の立て看板で、来園者を迎える動物園がある。福岡県南部に位置する「大牟田市動物園」だ。少子高齢化やレジャーの多様化で各地の公立動物園が来場者の減少に苦しむ中、大規模リニューアルに頼らず、職員らの知恵と工夫で奇跡のV字回復を遂げた。その取り組みが関係者の熱視線を浴びている。
2月10日、数カ月ぶりに大牟田市動物園を訪れた。連休中ということもあり、近くの駐車場は満車で、昼すぎにもかかわらず家族連れが続々と園内に向かっている。勾配のきつい坂道を上っていくと、青みがかったタイル張りの正門が見えた。年季の入った、いかにも公共建築らしい味も素っ気もない佇まいだ。さらに、ぽつんと置かれた立て看板に「ゾウはいません」と大きく書いてある。
通常、子どもたちが楽しみにしてやって来る動物園のスターが、ここにはいないのだ。しかも、それを堂々と看板に書いている……。何も知らない来園者はきっと、いきなり先制パンチをくらったような気持ちになるに違いない。
1941年に開園した頃は「延命動物園」という名前だったため、周辺住民の中には親しみも込めて今もなおその名前で呼ぶ人も多い。地域から愛され続けてきたこの園にも、かつては他の動物園と同じようにゾウがいた。名前は「はなこ」。しかし、2013年に死んでしまった。後継ぎを探す案もあったが、ワシントン条約で取引が厳しく規制されている上、購入や飼育に関わる費用は小さな動物園では賄いきれないほど高騰してしまっていた。
さらに、園長の椎原春一さん(59)をはじめ職員らは、野生では群れ単位で生活するゾウを1頭だけで飼育するのは、動物の生活の質を下げるという考えを持っていた。
「はなこが死んだら、次のゾウは飼わない」。高齢化でゾウが衰弱する数年前から周囲に説明していたという。その方針に基づき、例の立て看板の下の方には小さく、「ゾウは、群れ社会で生きています。当園には群れで飼える広さがありません」と注意書きがあり、妙に納得させられる。
動物園のスター、ゾウがいないことを正当化しているような気がしないでもないが、無理をしてまで飼う必要はないだろう。
しかしなぜ、スター不在にもかかわらず、入園客が増えているのだろうか。
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