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特集
» 2019年03月01日 07時00分 公開

園長に聞く:展示と“幸せ”は両立するか V字回復した動物園が向き合い続ける「矛盾」 (1/4)

閉園危機から復活し、注目されている大牟田市動物園。動物の生活の質を高める取り組みを強化し、動物を取り巻く社会問題について広く発信している。一方で、そこに潜む“矛盾”とも向き合い続ける。動物園の在り方について、園長にインタビューした。

[甲斐誠,ITmedia]

平成のV字回復劇場:

 戦略ミス?競合の躍進?景気のせい? どうして赤字になってしまったのか。どうして顧客は離れていってしまったのか。そして、どのようにして再び這い上がったのか。本特集では紆余曲折を経験した企業や自治体などの道のりを詳しく紹介する。

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 福岡県大牟田市の大牟田市動物園は、動物の生活の質を高める「ハズバンダリートレーニング」や「環境エンリッチメント」といった取り組みで入園客を増やし、閉園危機から復活した。その取り組みについては前回の記事で紹介したが、同園が取り組んでいるのはそれだけではない。「珍獣の展示場」という旧来の枠組みから脱し、野生動物を取り巻く問題を世間に積極的に訴える場でありたいと考えている。

photo 大牟田市動物園で飼育しているホワイトタイガー

 同園では、農作物を荒らすという理由で駆除されたシカやイノシシを肉食獣に与え、来園客にもその旨を説明している。血抜きはしてあるものの、骨や毛のついたままの肉にかぶりつく姿を見せている。食事中の様子を“目撃”してしまった人から「残酷に思える」「かわいそう」などとクレームが来る恐れは十分あるが、鳥獣被害と野生動物の駆除について考えてもらう機会と捉えている。

photo 肉食獣に与えるイノシシの足

 実物を見せてもらった。「これですよ」。園内の建物内にある大型冷凍庫の中から、同園の広報担当者、冨澤奏子さんがイノシシの足を持ってきた。殺菌処理は済ませているとのことだが、まだ毛のついた足を見ると、野生動物特有の生々しさを感じる。

 椎原春一園長は「牙で毛皮を切り裂き、肉を剥ぎ、骨を砕くという、肉食獣にとって大切な一連の行動ができるようになる」と、動物の生活の質を高める視点での効果も強調する。欧米では、専門用語で「屠体(とたい)給餌」と呼ばれるこうした試みが徐々に広がりつつあるという。

 鳥獣被害に悩む農業者が存在することや、彼らが生産した農作物を私たちが食べているということ。さらに、野生動物も生息環境の悪化で人里に出てきていること、生態系のバランスを壊しているのは人間であること――を来園者に伝えていきたいという。「人と野生動物がうまく共存できる道を考えていくきっかけを作るのも動物園の仕事だと思う」(椎原園長)

 このほか、野生下での個体数が減少したアムールヒョウの飼育も行っている。国際的な絶滅危惧種の保護に向けた枠組みに沿った取り組みだ。繁殖に向けて獣舎が手狭になった神戸市の動物園を支援するため、繁殖計画に参加しない「ポンちゃん」を一時的に引き取った格好だ。

 同園の極めて実直な社会派の取り組みも、子どもとともに来園する大人の心を捉えているように思う。ただ、社会的な問題提起はリスクも伴う。2018年2月、同園のホワイトタイガーの飼育員が、近親交配が続いて遺伝性疾患を抱えやすくなっている状況を苦慮し、獣舎の立て看板に「今後、ホワイトタイガーは飼育しません」と率直な気持ちを吐露したところ、インターネット上で物議を醸したこともある。

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