マイナンバー制度導入の目的とは、総務省によれば、(1)行政の効率化、(2)国民の利便性の向上、(3)公平・公正な社会の実現、である。要は、行政コストの削減と行政サービスの向上を提供しますので、マイナンバーで個人情報を名寄せして収集させてもらいます、というものだ(下図)。
この趣旨は、フリーサービスの提供と引き換えに、情報収集するデジタル・プラットフォーマーとかなり近いロジックだ。各国政府が連携してデジタル・プラットフォーマーへの規制を強化するのも、プラットフォーマーを通じてデータを政府がコントロールしていく体制を作ることが主眼である。いずれにしても、政府とデジタル・プラットフォーマーがどのような落としどころで協調するか、我々消費者もよく見ていく必要があろう。
「個人情報保護」といったキーワードには鋭敏に反応する消費者も、自ら無造作に個人情報を提供している場面は結構多い。デジタルインフラの普及で、さまざまな便利な無料サービスが提供されることが当たり前になっている今、その利便性は個人情報が代償になっているという意識が希薄になっている。
例えば、家計簿アプリというサービスは、クラウド上で家計簿データを入れることで、さまざまな情報やアドバイスを得ることができる便利なものだが、これこそ、普通は他人にしゃべることがない個人の懐具合を、自らすべて明らかにしている。こんな本来秘中の秘であるはずの情報が大量に集積しているとしたら、その情報を目当てにさまざまな投資勧誘、物売り、金貸しが寄りたかるに決まっている(どこかの家計簿アプリ企業の広告募集のページをご一読されるとイメージが湧くと思う。階層別のターゲティング広告もやっているので、利用者ならどんな広告が表示されるかで、自分の見られ方も分かるかも)。
すべて自己責任の世界だから、とやかく言うことではないのだろうが、「フリーサービスの提供者」(プラットフォーマーも政府も)が、その真の目的を自ら明確に開示するケースはほぼ皆無だ。便利な無料サービスとの引き換えにどんな情報が抜かれているのか、ということについては認識した上で、サービスを利用すべきだと思うのだが、もはや時代遅れなのだろうか。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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